DRリポート221

ふれあい毎日連載

「口腔乾燥症の克服を目指して」

生理学講座教授 吉垣純子先生

生理学講座教授 吉垣純子先生

 唾液分泌が低下した状態を口腔乾燥症(ドライマウス)と呼び、様々な口腔機能に障害が起こることが知られています。唾液は食事すると分泌が増加しますが、そのような刺激によって分泌される唾液を刺激時唾液と呼びます。一方、食事等の刺激の無いときもずっと少量の唾液が分泌されており、口腔内の潤いを保っています。この唾液を安静時唾液、または非刺激時唾液と呼びます。

加齢と唾液

唾液分泌量が加齢によって減少するかどうかは長らく議論がありました。高齢者の多くが口腔乾燥に悩んでいることは確かですが、高齢者は薬を服用していることが多く、その影響ではないかという見方もあり、意見が分かれていました。現在では、刺激時唾液は加齢の影響が少ないが、安静時唾液は薬の服用に関係なく加齢で減少すると考えられています。

安静時唾液の低下

食事の際には唾液が出るとしても、1日の中で食事をする時間はせいぜい2〜3時間ですので、残りの時間は安静時唾液が頼りです。したがって、安静時唾液の低下が口腔衛生の悪化や口腔粘膜の障害につながります。

 低下した唾液分泌を回復させる治療法が求められています。日本大学松戸歯学部生理学講座では、口腔乾燥症の治療法の開発のために、「代償性肥大」という現象に注目して研究を行っています。代償性肥大とは、左右一対ある臓器の片方に障害が起こると、もう片方がその機能を補うために大きくなる現象で、腎臓が有名です。

唾液腺でも同じような現象がみられます。頭頸部癌に対する放射線治療では癌組織だけでなく、しばしば唾液腺にも放射線があたることで組織が傷害され、唾液分泌が低下します。しかし左右一対の唾液腺のうち、片方の唾液腺だけが放射線照射による機能障害を起こした場合、もう片方の唾液腺が大きくなり不足した唾液分泌を補うことが報告されています(図)。

サイトカインの発現と上昇

ここで疑問が生じます。片方の唾液腺に障害が起こったことをもう片方の唾液腺はどうやって知るのでしょうか。我々は、左右の唾液腺間で何らかのシグナルが伝わると考え、その検索を行いました。その結果、唾液腺に組織傷害が起こると複数のサイトカインの発現が上昇することを見いだしました。傷害を受けた唾液腺から分泌されたサイトカインは、血流にのってもう片方の唾液腺にたどり着き、機能亢進を促すと予想しています。我々が見いだしたサイトカインの唾液腺組織における働きを明らかにすれば、組織傷害や加齢によって分泌能が低下した唾液腺の治療法の開発につながるのではないかと考えています。

■日本大学松戸歯学部付属病院☎047・360・7111(コールセンター)。

図 唾液腺における代償性肥大。左右片方の唾液腺に機能障害が起こると、何らかのシグナルがもう片方の残った唾液腺に伝わり機能亢進を促すと予想される。