見上げた虚空の先に-土屋巧 

レイソルコラム

 何度、相手チームのゴールセレブレーションの景色の一人となれば、彼が重ねてきた情熱や努力は報われるのだろうか―。


 我々をそんな思いにさせる選手がいる。柏レイソルDF土屋巧選手である。


 2022年に日本体育大学柏高等学校から加入したプロ2年目の彼は、今季コンスタントに試合に出場。公式戦出場数は早くも昨季の数を超えようとしている。全身で相手の行く手を阻み、一心不乱にボールを追う彼の姿に胸を熱くしたサポーターは多いだろう。


 ちょうどチームが長いトンネルの中にいたある日―。


 土屋選手は今春の自己評価について静かにこう話してくれた。
 「一瞬の隙を見逃さないプロのレベルの高さを痛感しています。3月から続けて起用してもらえて感じているのは、DFとして『まだ甘い』という事実。自分の特長は『相手の攻撃を潰す守備』で、自分なりにJ1のレベルでやれている感触はあっても、それ以上に足りていないものばかり。その部分を埋めないことには出場もチームの勝利にも貢献はできない」


 春からの出場の中では、試合の大半の時間、相手の攻撃に食い下がり続けたが、終盤に放たれた相手のシュートが自分の体に触れ、悪戯に軌道を変えてゴールネットを揺らしてしまったことも、ヒーローの一人になりかけた試合で立て続けに失点を重ねて打ちのめされたこともある。


 それらの経験が土屋選手の自己評価を慎重なものにしているのだが、レイソル首脳陣が土屋選手を辛抱強く起用を続けた事実が、「評価」として何より雄弁だった。


 その土屋選手に訪れた最初の「出世試合」は4月に三協フロンテア柏スタジアムで開催された鹿島との一戦だった。


 この日、右SBでスタメン出場したの表情は驚くほど冷たく、一転、プレー動作は熱く、何度もレイソルゴールへ迫り来る鹿島の攻撃陣の前に立ちはだかった。細谷真大選手や松本健太選手の活躍に隠れてしまったが、その貢献度は同じく活躍したDF立田悠悟選手が賛辞と共に嫉妬心を抱くほどだった。
 土屋選手を支えていたのは「プレー・インテンシティー(プレー強度)」に対する感覚だったという。何度も虚空を見上げた日々を過ぎ、気づけば、ただ強く相手に当たればいい、速く走ればいい、高く跳べばいいだけではない、絶妙な感覚を操っていた。


 「あの頃の自分は結果を出せずにいましたが、自分なりに自信をプラスできていましたし、『今の自分ができること』が増えてきた感触は自分の中にありました。どのくらいの力で相手に迫ってボールを奪ってというイメージが明確にあって、そのイメージをどう正しく表現するか。その感覚が掴めてきた。最初はすごく難しくて、毎回探しながらでしたけど、徐々にボールを奪えるようになって。言葉にするには難しい感覚的なものなんですけど」


 しかし、その翌週の鳥栖戦での空中戦での動作の中で足を負傷。経験と共に積もり積もったダメージは限界に達していた。


 担架でピッチを後にする際には「怪我はつきものとはいえ、それが今か…」と天を仰いでいたというが、幸いにも短期間での復帰を果たしている。抱負を話すその表情や語気は希望に満ちていた。


 「まず、『勝って終わる』ことが選手にとって最も大切なことで、その試合の中でどれだけ良いパフォーマンスを出せるのかも大切。そのために日々練習へ臨んでいます。自分は『まだ若いから』と言われたくないし、『無理が効く選手』でありたいので」


 退任したネルシーニョ監督から監督の座を引き継いだ井原正巳監督は「レイソルには能力の高い若手選手が多くいる」と土屋選手らの起用に関しても前向きな姿勢を示している。土屋選手が再び首脳陣の期待に応える日も近いだろう。そう思わせるだけの歩みを我々は見てきた。


(写真・文=神宮克典)