タッチカービングで鳥を学ぼう 野鳥彫刻家 内山春雄 

我孫子

 「目の見えない人は特殊能力があって、触った物を頭の中で立体として描けるのです」。


 木彫りの鳥の前で、野鳥彫刻家の内山春雄さんは語る。内山さんは、今年11月から東京都美術館で開かれる展覧会に出展するタッチカービング作りに忙しい。


 タッチカービングとは、目の見えない人が触って鳥の形状を理解するための鳥の彫刻のこと。生物学的に正確かつ精密に彫られ、姿や形を指先で触って確認するので基本的に色は付けない。繊細な足の部分だけ中に針金を入れる。


 「鳥ってこんな形をしていたんだ」と彼らは驚く。犬、猫、魚などには触れることができるが、鳥に触れる機会はあまりない。

  IT化が進み、目の見えない人にとっても便利な世の中になったが、触察は知識を深め生活を豊かにするためには欠かせない。


 内山さんは、日本で最初の野鳥彫刻家だ。1979年、アメリカで始まったバードカービング(野鳥彫刻)を日本鳥類保護連盟が日本に紹介。博物館で剥製の替わりとして展示するために、見本を彫って欲しいと依頼されたのが木像嵌師(もくぞうがんし)だった内山さん。「鳥の勉強ができるなら」と引き受けた。紀宮様(黒田清子様)も研究員として活躍されていた山階鳥類研究所の会議室の隅で、彫刻を始めた。

幻の鳥 ヤイロチョウを制作中


 バードカービングを広めるために、多くの鳥類学者の意見を聞いて腕を磨いた。オレゴン大学やオアフ島で開かれた太平洋鳥類学会に出席し「触って学ぶ鳥類学」というタイトルでタッチカービングの可能性を発表した。


 併行して、盲学校でタッチカービングを紹介したり、鳥の進化論の話をしたりと精力的に活動している。「あそこで鳴いていた鳥が、こんな形をしていたんだ」と子どもたちの喜ぶ顔が内山さんの原動力になっている。


 11月から開かれる美術館の展示用に、25点ものタッチカービングの作品を作り上げる。弱視の人を考慮に入れ、はっきりとした色を付け、介護者の人が鳥の説明をしやすいように鳥の写真や説明をつける予定だ。


 タッチカービングを通じて、いつか未来の鳥類学者が生まれるかもしれない。

■内山春雄(野鳥彫刻家、木像嵌師、山階鳥類研究所特任専門員、現代の名工)



(取材・文=高井さつき/写真=高井信成)