ある「ヒント」に忍ばせた真髄-中村慶太 

レイソルコラム

 柏レイソルが井原正巳監督体制となってから一ヶ月が経過した。


 「アグレッシヴで組織的なサッカーの復活を」、「今は少しでも多くの勝点を積み上げる必要がある。一戦一戦しっかりと勝点を積み上げたい」。


 5月の就任時にそのように今後の展望を示し船出した新体制だが、事後に迫っていた試合日程を見れば、その航路が決して容易い道ではないことは明らかだったのだが、選手たちも口々に「ボールを大切に、動かしたい」、「自分たちの良さを出していきたい」と語る様子からアプローチの変化や前向きな姿勢が感じられた。


 ただ、それ以降、不穏な展開を挽回した試合や壮絶な打ち合いとなった試合、現状の力の差を受け入れる必要がある試合など、レイソルが見せてきた「表情」は様々。「時間」や「忍耐」が必要なのもまた明らかだった。


 新体制での数試合が終了した時期にMF中村慶太選手に話を聞いた。彼はこれまで数回の負傷や手術などがあり、出場機会が少なかった選手の一人。当時は「再浮上に賭けていた」、そう表現して差し支え無い存在でもあった。


 中村選手は5月のルヴァン杯・鹿島戦(1‐0●)で先発出場。強かに中盤のあらゆるエリアに顔を出し、長短織り交ぜた種類豊富なキックからボールを走らせるなどの仕事が印象的だった。


 「今、自分ができることは出せた。他の試合を見ても、『ボールを落ち着かせる必要』があると感じていましたし、今日も意識していた。これはチームで共有すべき感覚だと思っているし、もっと選手それぞれが『こだわり』を持ってプレーするべき。パス練習を一つ取ってみても、こだわって練習をしていないなら、チームは変わっていかないと思う。そういった小さな部分からチームは変化していくと思う。そうやって自分にできる最大限のことをチームに落とし込むことができたらと思います」


 当日のプランと中村選手の個性がマッチしていた事実はあるにせよ、そう話す様子からは状態の良さだけでなく、選手としての強い「こだわり」を感じさせた。


 「自分が試合に出る以上はしっかりとした仕事を求められるし、自分の価値を下げることなく、『自分の良さ』を示していくのは普段の練習も含めて『普段通り』ではあります」


 そうはっきりと口にする中村選手の次の言葉からは「こだわり」のみならず、現在のレイソルに必要な思考、その「ヒント」が詰まっていたように思った。彼は彼のやり方で「ボールを大切に」扱っていた。


 「チームからは『もう少し前で』と求められましたから、チームの要求に応えていかないとですが、自分の判断には理由があるし、『前が空いているから』という理由で前を狙う攻撃だけでは相手の守備をずらせないし、その攻撃直後の試合運びも難しくなる。パスの繋ぎ方も『味方より、相手を動かすこと』を第一に判断をしていた。一回のパスでもスピードの緩急で相手を置き去りにできるし、ロングパスの滞空時間や質も意識していました。良いボールを出せていたと思いますし、そのあたりの狙いをみんなに伝えていきたい」


 若手選手たちと臨んだ6月の天皇杯・山梨学院大学戦(7‐1◯)ではミドルシュートで圧勝の口火を切るなど、存在感は際立った。若手たちを操った中村は、その背中や一回のパスにメッセージを乗せていたかのようだった。彼がピッチで示した「ボールを大切にする」、その様はレベルが違った。


 「攻撃的な若手が多く出場しましたが、彼らが動き出して、『ボールを入れても次が生まれない』と感じればやめるし、後向きの選手に渡して相手ボールになるのは嫌だし、そこは試合を読みながら。それができていたら、『2‐0』でも自分は満足。自分に染み付いた感覚を言葉にすると、そんな感じなんですけどね」


 もちろん、チームの全員が中村選手のように振る舞う必要はないし、「こだわり」には「責任」が常に付き纏うもの。生半可なことでは成立しない。だが、一つのハードルが仕掛けらているこの「ヒント」のその先に興味がある。


(写真・文=神宮克典)