三月はアンビバレント
「アンビバレント」とは、同じ事柄や対象(相手)に対して、相反(矛盾)する二つの感情や態度を持つことです。
「三月」は特にこの両面価値的な感情を抱きやすい時期と言えます。たとえば、卒業式を迎えられた皆さんは、そこに卒業の「喜び」と同時に友達との別れという「悲しみ・寂しさ」を抱いたことでしょう。そして、新たに進む学校や社会に対しては「期待」と「不安」が押し寄せているのではないでしょうか。
また、この輝かしい門出は保護者にとってもアンビバレントなものです。ほんの3年前にドキドキしながら入学式に臨んだ小さなわが子が、卒業式では大きくなった背中、堂々と張られた胸、立派な眼差しなど幾重にも成長した姿を見せながら目の前を過ぎていくのですから。
その成長に「胸いっぱい感激」し、一方でかつての幼さや可愛さが脱ぎ捨てられてしまった「喪失感」を抱いているのではないでしょうか。
さて、先日懐かしい顔が職員室を訪ねてきました。懐かしいと言っても2年前に卒業した生徒です。目的は「成人式を迎えたことを記念して開催される同窓会への招待状」を手渡すことでした。有り難く頂戴しました。
大学生となった教え子は立ち居振る舞いが急に大人びて見えます。青春を謳歌しながらも、考えや興味の深さや広がりが全然違います。よく知っているはずの青年の、全く知らない面が随所に見られ、時に戸惑ってしまいます。
時折見せるはにかむ笑顔や口癖にかつて教室に居た頃を重ねながら、目の前の「可能性の塊」が放つ一言一言を受け止める時間は正にアンビバレントな心持ちです。
「共に過ごした時間を懐かしみたい」思いと、「希望溢れる未来の話をもっと聞かせてほしい」思いと。応援しながら、それ以上言われたらまぶしすぎる、悔しくなってしまう!と叫びそうな自分も。一人でもこれですから、さあ、同窓会の会場ではどうなることやら。
■K太せんせい
現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。