書の力 第三十回 2023年7月号

ふれあい毎日連載

古谷蒼韻(ふるたにそういん) (1924年― 2018年)  盤礴(ばんはく)

175.0×85.5㎝ 紙本墨書 1面

盤礴(ばんはく)とは手足を自由に伸ばすことや広大なさまを表す言葉で、ここでは真理(ありのままの気持ち)とでも言い換えるべきでしょうか。この言葉を書いた理由が落款(らっかん)(作品の付記部分)に書かれています。落款では中国宋(そう)の詩人であり能書でもあった蘇軾(そしょく)の言葉を引用しています。

蘇軾によると大きな字は字画を緊密に連携して余計な空間を作らず書くことが難しく、小さな字は詰まった字画にゆったりとした空間を有効的に作りながら書き進めるのが難しいと書の秘訣を明かしています。 

さらに古谷蒼韻(ふるたにそういん)はこの言葉をとってまだ私はその秘訣を手中にしていないと嘆いているのです。日本を代表する書家である蒼韻の心中に圧倒されます。書の道はなんと崇高で奥深いのでしょうか。

※この作品は当館で現在開催中の「大きな字」展(会期:7月1日~8月20日)で展示中です。

(学芸員 山﨑 亮)

【釈文】

盤礴。

東坡先生曰大字難於結密而無間。小字難於寛綽而有餘。愚生欲極其法未得真嗚呼。甲申孟穐於洛南菟道平等院南岑下楽山艸庵。蒼韻迂人書。

【大意】

(書の)真理

蘇軾が言うには「大きな字は字の一画一画を連携させて間延びせずに書くことが難しく、小さな字は一画一画が詰まってしまいがちで、字に必要なゆとりの空間を作って書くことが難しい。」ということらしい。私(古谷蒼韻)はそのコツを極めようと努力しているがいまだに手に入れることが出来なくて残念だ。甲申の年(ここでは2004年)初秋に私のアトリエで書きました。