「工芸ぼんさい」

ちば湾岸エリア
慈愛の眼差しで自作を眺める木賀さん

木賀輝子さんの指先から生まれくるもの

鎌ヶ谷市

「工芸ぼんさい」の存在をご存じの方はどれくらいいるだろうか。紙、布、針金などを駆使し、花々や樹木を手作業で作り上げる「工芸ぼんさい」を初めて見たときは、まるで本物の樹木を見るような躍動する存在感に息を呑み、圧倒された。

鎌ヶ谷市在住の工芸ぼんさい作家の木賀輝子さん(86)は華道家でもある。「〝風・時(刻)・声〟を意識して作品を7制作している」と楽しそうに話してくれた。

一期一会で植物と対話し、無駄なものを取り除き、省略の限りを尽くす芸術が花道だとすれば、「工芸ぼんさい」は必要なパーツを一つひとつゼロから手で作りあげる、まるで対局の世界とも言える。気の遠くなるような作業を積み重ねることで作品が生まれ、その作品は凛とした美しさと生命力を放つ。まるで木賀さんの作品への愛情や思いが写し出されているかのようだ。

「作品を見て感じる静けさは、ものすごくたくさんのパーツで生み出されているのよ」との言葉が意味するように、例えば写真の杉の木の針葉はおよそ3万2000本以上にもなるそうだ。過去には作業に集中しすぎて首を圧迫骨折してしまったこともあるそう。

制作にかかる時間や手間は惜しまない。「すべてはその先にある完成した作品を思い浮かべながらパーツを作り、作った葉や花たちと話をしながら作品に命を吹き込み、組み上げていく楽しい時間が待っている。作業しながら次々にいろいろなアイデアが浮かんでくるのよ」と心から楽しんでいる様子だ。

作品に使う鉢物選びも納得のいくものに出合うまで探すそう。樹木の成長による変化を楽しむのが盆栽だが、「工芸ぼんさい」には、本物の樹木以上の命の煌きを感じさせる魅力がある。