日本大学松戸歯学部 病理学講座 教授 久山 佳代先生
2019年の春先、元アイドルの口腔がん公表のニュースはとても衝撃を与えました。口腔にもがんができるの?口内炎と見分けがつかないの?このような不安や疑問をお持ちになられた患者さまで、本学付属病院の外来待合室は溢れました。
希少癌ながら、QOLに影響
口腔癌は希少癌(患者数が少ない、まれながんのこと)ですが、進行してから治療を行うと患者さまの食べる、飲む、話す、笑う、歌うことに大きな影響を与えてしまいます。そして口腔がんは日本で少しずつ増え続けています。
そこで口腔がんにならないために慎重に丁寧に向き合った方が良い「口腔がんになる可能性を少しでも持ち合わせた病気群」についてこのコラムでご紹介したいと思います。3種類の病気を3回シリーズでお話します。
口腔粘膜に発生する口腔扁平苔癬
苔癬とは岩に生える苔のことで、黄色、緑色やビロード状に輝く姿は光に生えるため、山岳写真家の目を捉えています。一方、皮膚科での苔癬とはほぼ均一な小丘疹が多数あるいはばらばらに存在し、長くその状態を持続している病名です。
扁平苔癬は扁平な丘疹の表面に細かい灰白色線状が網の目状にみられ、掻痒を伴う皮膚炎です。口腔粘膜に発生するのが、今回のテーマである口腔扁平苔癬というわけです。
口腔扁平苔癬は気難しい病気
口腔扁平苔癬は、とくに頬の内側の粘膜(しばしば左右両側)に灰白色の網の目状線状がみられ、レース状白斑と表現します。レースとは糸のループを基本に絡み、組み、編みなどによってつくられた隙間のある装飾的な布地のことです。口腔扁平苔癬ではこの隙間の赤味が増し、白い線状レース模様がより強調されます。赤味が増すということは、その部分に炎症が起きていることのサインです。
したがって口腔扁平苔癬は、香辛料にしみる、何もしなくてもピリピリと痛みを感じる難治性の炎症です。“装飾的なレース模様”と“難治性”とは、なんとも相反する二種類の言葉ですが、口腔扁平苔癬はとても気難しい病気なのです。
その気難しさの原因のひとつが、原因がよくわかっていないことです。服用している薬、歯科用金属、お口に触れる化粧品、タバコ、疲労、ストレスなどが病気を引き起こしたり悪化させる要因であり、免疫異常が関わっています。また口腔扁平苔癬を直接治療する方法はなく、専門的な口腔清掃と誘因を遠ざけることにより緩解することがあります。
本学付属病院では、口腔粘膜の病気とじっくりと向き合って患者さまのお口の状態に合わせて治療いたします。
■日本大学松戸歯学部庶務課 ☎047・360・9567。
※写真cap
写真1:頬の内側のレース状白斑
写真2:舌の横~裏側の赤味を取り巻くレース状白斑