DRリポート233

ふれあい毎日連載

ワイヤー矯正による成人矯正治療について

 日大松戸歯学部教授 根岸慎一先生(歯科矯正学)

根岸慎一先生

矯正歯科治療は小児矯正(Ⅰ期)治療と成人矯正(Ⅱ期)治療に分かれます。Ⅱ期治療の開始時期としては歯の生え変わりが完了した永久歯列期で、顎骨の成長のピークを過ぎた小学校高学年から成人にかけて行われます。

成人の矯正歯科治療

適応としては、出っ歯(上顎前突)、受け口(反対咬合)、乱杭歯(ガタガタ、叢生)、開咬などとなり、親知らずを除く28本の全ての永久歯が顎に対して適切に並びきらない場合は、永久歯の歯の抜歯が何本か必要になる可能性もあります。(場合により、別に親知らずも抜く場合もあります)

また、重度の反対咬合などをはじめとするあごの骨の前後的位置や左右側への歪みが大きい「顎変形症」と診断された場合は、歯科矯正治療のみでは安定したかみ合わせに治すことは非常に困難です。その場合、上下顎に対し外科手術を併用し、あごの骨自体を適切な位置に移動させ、その手術前後に矯正治療を行います。

治療法・期間と費用

一般的に歯科矯正治療は自費負担であることが多いですが、顎変形症の場合は歯科矯正治療も入院を含む外科手術も健康保険の適応になります。

Ⅱ期の治療方法としては、近年透明なマウスピースをはじめとする様々な装置が登場してきましたが、大学病院においてはマルチブラケット装置と呼ばれる形状記憶合金をはじめとするワイヤーを使うことが殆どです。

このマルチブラケット装置の構造としては、歯の唇側に歯科用の接着剤を使用しブラケットと呼ばれるワイヤーを通す部品を1つ1つの歯に接着します。治療期間としては患者様の状態にもよりますが、月に1回毎の通院でワイヤーの交換・調整を行い、動かす期間としては1~3年ほどかかります。

より奇麗なかみ合わせのために

治療により綺麗なかみ合わせになった後はマルチブラケット装置を撤去しますが、そこで終わりではなく、保定装置と呼ばれる「後戻り防止装置」を装着します。これは、歯科矯正治療で歯を動かした直後のかみ合わせは、周囲の骨や歯根膜と呼ばれる歯を支える組織が非常に不安定であるため、この保定装置を装着していないとあっという間に歯並びは崩れてしまいます。

この周囲組織が安定するまでの間、歯並びの安定性を補うために、治療後は必ず保定装置を使用します。期間としてはやはりブラケットを付けていた期間と同じくらいの期間を行うことが推奨されており、徐々に使う時間を減らしていく形になります。歯並びを治すことはQuality of Lifeつまり生活の質を向上するためにとても重要なことです。大学病院では、矯正治療相談のみの方も積極的に受け入れております。少しでも気になる方はご遠慮なくお越しください。

■日本大学松戸歯学部付属病院☏047・360・7111(コールセンター)