197回   DRリポート口腔がんの先触れ? ~第2回 “白板症”~  

医療最前線Drリポート

日本大学松戸歯学部 病理学講座 教授 久山 佳代先生 

合わない靴を履いていたり、痛い脚をかばって歩くと足の裏に胼胝(べんち=タコ)ができます。本来体重がかからない皮膚に負担がかかり、その部分の角質が厚く固くなっています。見た目に周囲よりもやや黄色みが増して不透明な皮膚の皮になっています。

皮膚科では皮膚の皮の最も表層にある角化層が限られた範囲で増え、厚みを増した状態を胼胝(べんち)といいます。胼胝といえば“ペンダコ”という懐かしい言葉があります。学生の頃には中指の第一関節にできていました。パソコンが筆記具の主流となってしまった今日、私の中指はタコと無縁になりました。

白板症(はくばんしょう)

白板症

さて、口の粘膜にできる胼胝に似た病気が、第2回目のテーマである白板症(はくばんしょう)です。「口腔がんになる可能性を少しでも持ち合わせた病気群」のひとつです。

白板症は、口の粘膜が白色で板状に盛り上がった病気で、擦っても取れません。前回、口の粘膜はピンク色が健康だと言いました。白板症では粘膜の角化層が限られた範囲で増え、厚みを増すことにより、光の透過性や屈折率が変わり白く見えます。

口腔扁平苔癬と異なって痛みがないために、ご自分が鏡の前で口の中をじっくりと観察して、あるいは歯科検診で偶然発見されることが多い病気です。白板症は舌や歯肉が多いですが、口の中にはどこにでもできます。中年以降の男性で、虫歯や義歯などがいつも当たる箇所が刺激になったり、タバコやアルコールを好む方に多くみられます。

「羊の毛皮を着た狼」

それでは、白板症は胼胝(べんち=タコ)の仲間なのに、どうして慎重に丁寧に向き合った方が良いのでしょうか。それは、白板症の中には「胼胝とほぼ同じ状態」、「口腔がんの前兆の状態」、「すでに口腔がん」の3種類の可能性があるからです。

驚かれたことと思いますが、口腔がんの一部は、白い板が貼り付いたような姿をしているのです。この3種類のいずれであるかは、専門病院で一部を小さく切り取り、顕微鏡で観察しないとわかりません。

私はこの白板症のことを「羊の毛皮を着た狼が混ざっている」と表現しています。お口の中の粘膜はピンク色です。“ベーっ”と舌を思い切り出して表面、裏側、右側、左側、下側、左右の頬、歯肉と鏡の前でじっくりとお口の中全体を観察してみてください。もしも白い部分を見つけたら、2週間経ってから、もう一度観察してみてください。白い部分が消えていなかったら、専門病院で診てもらってください。

本学付属病院では、口腔粘膜の病気とじっくりと向き合って患者さまのお口の状態に合わせて治療いたします。 

■日本大学松戸歯学部庶務課 ☎047・360・9567。