DRリポート第226回

ふれあい毎日連載

日本大学松戸歯学部 内科学(消化器)講座 教授  山本敏樹先生 

山本敏樹先生

最近の肝臓病について 

その1 「肝臓病の概要」

 今回は「沈黙の臓器」とよくいわれる、肝臓の病気についてお話しします。主な慢性的な肝臓病の原因には、肝炎ウイルスへの感染、自己免疫性肝疾患、アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、銅や鉄の代謝異常による病気、薬剤による肝障害などがあります。

また、慢性の経過にはならず一過性に肝臓が破壊され、その後よくなる病態は急性肝炎といわれ、多くはA型肝炎やE型肝炎、あるいはヘルペス属のウイルス感染により引き起こされます。しかし急性肝炎のなかにはごく一部に、重篤な病態に進行し救命が難しい劇症肝炎と呼ばれる急性肝不全を起こすものもあり、今後の医療の課題と考えられています。

肝臓病の歴史

初めに少し肝臓病の歴史についてご説明いたします。戦後は肝臓の病気というと、酒の飲みすぎと思われていましたが、1960年代にB型肝炎ウイルスが発見されて、このウイルスが出産時に母子感染することが感染原因であることが判明しました。

さらにその後、血液製剤により感染する肝炎ウイルスとして、1990年代にC型肝炎ウイルスが発見され、アルコール性肝疾患よりもこれらのウイルスへの感染が主な肝臓病の原因であることがわかりました。

つい10年~20年ほど前までは、実際に肝臓病の大半は、C型あるいはB型肝炎ウイルスの感染により引き起こされていました。これらのウイルスに感染し肝炎を発症すると、10~30年程度の慢性肝炎と呼ばれる病脳期間を経て、肝臓の終末状態である肝硬変へと進展し、肝不全や原発性肝癌を合併するようになります。

2000年以前には国内で年間3万から3万5000人程度と、たいへん多くの方が原発性肝癌で亡くなられ、肺癌、胃癌に次ぐ癌死の主要な原因であったことと、「沈黙の臓器」は末期になるまで患者本人が気づきにくいため、サイレントキラーなどともいわれ社会的問題と認識されていました。

肝炎ウイルスの治療の進歩

医療現場でも多くの患者さんの診療が行なわれながら、よい治療法の開発を待ち望んでいました。そしてB型肝炎やC型肝炎患者さんたちの協力の下に、新薬が開発されるたびにその有効性や副作用などの問題について、臨床情報の収集が繰り返し行われ、次第に有効性や副作用の問題なども改善されました。

この間の新薬の開発は決して順調とはいえなかったかもしれませんが、待望の抗ウイルス薬の開発により、現在はこの2つの肝炎ウイルスによる猛威を、飲み薬を服用するだけで防ぐことが可能となっています。

特に、あれほど治療に難渋し多くの患者さんを苦しめたC型肝炎は、治癒するようになり、B型肝炎とC型肝炎のために肝硬変や原発性肝癌で亡くなる方も、年間2万5000人程度まで減少しており、この間の医学の進歩を実感します。

図:2000年以降の主要悪性疾患の死亡数