K太せんせいの本棚 21 『「のび太」という生き方』

K太せんせいの「放課後の黒板消し」

『「のび太」という生き方』

この本は当時富山大学教育学部で「ドラえもん学」を提唱し、研究していた横山泰之先生によって書かれました。

 ご存じの通り、成長したのび太君はクラスのマドンナであったしずかちゃんと結婚します。また、映画ではいつも大活躍してヒーローそのもの。そして困ったことがあれば「不思議なポッケ」で助けてくれるドラえもんや、仲間たちが周りにいます。

 ところが、普段ののび太君は正にダメダメな少年なのです。勉強に関しては「0点」が彼の代名詞、野球をすれば打率は「0.01」のスポーツ音痴。得意技はあやとりと昼寝という、一般的には冴えない男の子。ジャイアンやスネ夫に泣かされて、先生やママに叱られて、「ドラえも~ん」と泣きつく毎日です。

 しかし、ドラえもんを研究してきた横山先生の見解は違いました。

 のび太君は確かに勉強や運動が苦手です。でも、どんなにドジでノロマと言われようと、友だちや周りの大人たちは彼をのけ者にしたり見放したりしません。私たちも「相変わらずダメな奴だなあ」と思いつつも、嫌いになったりせず、密かに親近感を覚えたり、時には応援したりしていませんか?

 つまり、のび太君は「ぐうたら三昧」を続けながらも明るい未来を手に入れ、ついには夢を叶えてしまうという「魔法の法則」を持っているのです。

 横山先生はこれを「のび太メソッド」と名付けました。のび太くんのようなダメな奴が、どうやって幾多の困難にひるまずに生きたのか。未来の道具だけでは説明のつかない秘密がこの本には書かれています。

 なお、最近「おとなになるのび太たちへ: 人生を変える『ドラえもん』セレクション」という本も刊行されました。子どもたちが憧れる職業に就いた十人の「おとな」たちが、人生を決めるきっかけとなった選りすぐりの「ドラえもん」の話を教えてくれています。読書の秋、こちらも併せて読んでみてはいかがでしょう。

■K太せんせい

現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内などを執筆する。