特攻の母 島濱トメさん「ホタルの母」を語り継ぐ 桂 竹丸師匠(八千代市在住) 

ちば湾岸エリア

日本で最も多くの特攻隊が出撃した鹿屋市生まれの噺家

落語芸術協会理事で落語家の桂竹丸師匠は八千代市に暮らす。NHK新人演芸大賞、文化庁芸術祭大衆芸能部門優秀賞などの受賞歴を持つ実力派の噺家だ。この時期になると、平和を願って口演されるのが「ホタルの母」の噺だ。 

地噺(じばなし)を中心とした噺で高座を沸かせ、観客を楽しませる桂竹丸師匠。「地噺」とは「人情噺」や「滑稽噺」のようにストーリーを追う形式ではなく、叙述風に語られ、噺家の話術や即興性の技量が色濃く反映されるもの。「頼りになる愉快な親戚の叔父さん」のような親しみやすさもあり、ファンも多い。鹿児島県出身。

地噺の他にライフワークとして取り組むのが歴史上の人物にフォーカスした噺。中でも、8月終戦のこの時期になると各地で高座の依頼が増えるのが「ホタルの母」。知覧で特攻隊員を見送った「特攻の母」として知られ、彼らに深い愛情を注いだ人物で、富屋食堂の女あるじ、鳥濱トメさんの噺だ。

竹丸師匠は日本で最も多くの特攻隊が出撃した歴史のある鹿児島県鹿屋市に生まれた。「噺家になった今、一生かけて語り継がねばならない」という信念がある。昨今のロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルのガザ侵攻にも思いを馳せ、なぜ若い兵士は特攻せねばならなかったのか、戦争の無意味さ、命の尊さを語り継ぐ時、噺家の顔に語り部の顔も重なる。

現在、構想中なのは特攻に異議を唱えた飛行部隊「芙蓉部隊」を率いた美濃部正少佐の話だ。「特攻は間違っている。生きて帰ってこいと伝えた少佐に自分を重ね、話芸の中で伝えていくつもり」。人情噺のように、決して重くなり過ぎず、しかし真剣に考えさせられる話術をもつ竹丸師匠にしかできない噺となることだろう。

竹丸師匠が千葉県に暮らすようになったのは

一門で竹丸師匠の誕生日を祝う

10年ほど前まで品川に居を構えていた。しかし、毎週日曜の鹿児島のラジオ番組のレギュラーを30年も勤めていて、毎週羽田空港へ。プライベートでは東南アジアへ旅に出かける事が多く成田空港に行く事も多い、寄席は都内にある。地の利的にちょうど真ん中だった八千代市に引っ越すことを決めた。「住んでみたら始発(東葉高速鉄道)もある、物価が安い、静か、自転車で動きやすい、何より人が温かい等々、離れられなくなった」と話す。

揃いの浴衣で仲睦まじい竹丸一門

◆出演情報:8月21日~30日「浅草演芸ホール」昼席主任(トリ)。大喜利「謎かけ」お題に採用されると手拭いがもらえる。

竹丸師匠の3人の弟子

竹千代さん

桂 竹千代さん

弟子の中では長男的存在とも言える桂竹千代さんは旭市の出身で、もともと漫才師。爆笑派と言われる師匠に弟子入りしたいと思って寄席に通っていた時に竹丸師匠の爆笑高座を聴いてこの人だ!と思い弟子入りを志願。

「一番弟子は一番面倒を見てもらえると聞いたこともあり、当時師匠には弟子がいなかったので、一番弟子になれる」とヨコシマな気持ちもあったようだ。竹丸一門は師匠、弟子ともに互いをネタにし合えるほど仲の良い稀な一門。「それも全て竹丸師匠の寛大な人柄に他なりません」と、竹千代さん。旭市観光大使。2021年文化庁芸術祭新人賞受賞。

◆出演情報:8月7日(水)旭市の七夕市民祭り。9月16日(月・祝)の旭市敬老大会。東総文化会館。

笹丸さん

桂 笹丸さん

次男的存在の桂笹丸さん。弟子入り志願の際の師匠の言葉が今でも心に残っている。断られる覚悟をしていたところ意外にもOKをもらえた。ただし・・と続き「今から1カ月間、寄席を巡り他の師匠の噺を聞いて、もっといい師匠がいたらその時は紹介するからそっちへ行くように。その上で俺がよければうちへ来たらいい。師匠選びは人生がかかっていることだから」と。

師匠の言葉に感動し、言われた通り1カ月間寄席を巡ったものの、最初から決めていた竹丸師匠のところへ。そんな笹丸さんだが、師匠との海外旅行では師匠にあちこち案内してもらった挙句、楽しくて海辺で師匠に荷物番をさせたまま2時間も遊んでしまったのだとか。

◆出演情報:8月21日~30日、浅草演芸ホール昼席。

竹紋さん

桂 竹紋さん

最年長だが末弟子の桂竹紋(当時は竹もん)さんは師匠と同じく九州で、熊本出身。30歳過ぎてからの落語家への転身で貯金も無く自ら内弟子として、住み込みで修行する事を志願した。30歳と64歳の男性二人暮らしは師匠と弟子の生活から、時には夫婦のような、時には親子のような日々。「師匠から、別れた女房より美味いと味噌汁を褒められた」と笑う。笑う日もあれば泣く日もあった4年間の内弟子生活の中で、八千代村上駅前にある「フルルガーデン」が心を和ませてくれた思い出の場所だそうだ。

県内では月に1回映画批評家の前田有一氏と「オモシロ映画道場」という落語一席と映画業界の裏話を楽しくトークする会を開催。俳優出身というバックグラウンドだからこそのエンタメ企画で、楽しそうだ。

◆出演情報:8月23日㈮14時開演「オモシロ映画道場」。木戸銭1800円(事前予約·前売り1600円)。出演は桂竹紋、前田有一(映画批評家)。会場は千葉市美術館9階。▽問☏080・5242・4396 (江口さん)。