「日新」松井如流《書の力 第8回》

書の力

昭和40年第3回現代日本書家十人展出品作 

紙本墨書 二曲半双屏風 各139.4×69.8(本紙寸法)

東京五輪で日本は史上最多のメダルを獲得し、興奮冷めやらぬ方も多いのではないでしょうか。「日日に新たなり」(ひびにあらたなり)、すなわち「日新」とは活躍したアスリートたちにぴったりな言葉です。

 「日新」は中国の古典である四書の一つ『大学』に、中国・殷王朝(紀元前17~11世紀)の創始者・湯王(とうおう)が使用した盤(ばん)(皿状の器)に刻まれたことが記されています。その銘文「苟日新(まことに日に新たに)、日日新(日々に新たに)、又日新(また日に新たなり)」とは、途切れなく新しさを求めることをいい、意識の高さや努力そのものです。

こちらの「日新」を作品にした松井如流(まついじょりゅう)もまた、書家、書の研究者、歌人として知られています。当時、日本の書学の最前線で如流(じょりゅう)は執筆活動を重ね、それらを作品に昇華させては話題となりました。拓本(たくほん)(石碑や器物に刻まれた文字や文様を紙に写しとったもの)の収集家としても名高く、それらは教科書や参考書にたびたび掲載されています。

二曲半双の屏風の一面に一字をあてるこの作品は、見るからに懐広くおおらかさがあります。山の岩肌に直接文字を書いて刻んだ摩崖(まがい)に如流は心魅かれました。その要素をたっぷりと草書(漢字の書体のひとつ)の表現に含ませ、如流の人柄もにじませます。

成田山書道美術館では、9月4日から10月24日まで「生誕120年松井如流と蒐集の拓本」展において、この作品を含め、所蔵の書作品や手紙等93件と拓本131件を一堂に公開いたします。(学芸員・谷本真里)