今年4月、四肢の自由を失いながらも、口に筆をくわえて描く方法で多くの作品を残した詩画作家、星野富弘氏の訃報が届きました。
幼いころからチャンバラ好きで、陸上部では棒高跳びで県大会を制し、青年期には登山や器械体操にのめり込むほど体を動かすことが大好きだった星野さんは、新任の体育教師として器械体操の指導中に誤って頚髄を損傷してしまいました。
子どもたちに体を動かす喜びを伝え始めて僅か2カ月での出来事……その絶望たるや表現する言葉もみつかりません。
それから9年にも及ぶ入院生活の中で、やがて励ましの手紙に対する返信を自ら書き、そこにいただいた季節の花々の絵を添えるようになります。これが花々の詩画作家となるきっかけでした。
群馬県みどり市の草木湖畔にある「富弘美術館」には季節やテーマに合わせて沢山の星野作品が展示されています。大小の円が連なっていく展示室は他に見たことがありません。まるで作品の花々に囲まれているようで、一枚一枚の絵と詩をゆっくりと見ていると、それはもう野原を星野さんと散歩しているような気持ちにさえなります。
廊下もなく繋がる部屋を巡っていくと、いつの間にか外へと通じる「風のへや」にたどり着きます。扉を開けるとそこには見渡す限りの湖(ダム湖)と山々の織りなす景色が広がっています。11月の末に訪れた時には美術館の周りで色づく紅葉が対岸の山々にまで続いているようで、星野さんが魅せられた自然の息吹を全身で感じることが出来ました。
日々「生きる」こと。その中にある小さな幸せや気づきを紡いだ詩画はどんな時にも私たちにそっと寄り添ってくれます。最後に「サフラン」の花の詩を紹介しましょう。「冬があり夏があり 昼と夜があり 晴れた日と雨の日があって ひとつの花が咲くように 悲しみも苦しみもあって 私が私になってゆく」。私たちもひとつの花。自分らしさを受け止めて凜と咲きたい、そう思わせてくれる詩です。
■K太せんせい
現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。
※写真 『悲しみの意味』富弘美術館提供