龍頭オブジェ「阿」
香取市
松森美術京橋店で昨年10月、「平松龍馬個展V」を見た。龍頭オブジェ「阿」の作品から湧き出す強烈なエネルギーに驚き、心を奪われた。
ごつごつと亀裂のはいった金彩の茶碗、怪しげな色彩の釉薬「妖彩」に彩られた花器や大皿など、他のどの作品にも同様の、ハイレベルなエネルギーを宿し、時に恐怖すら覚える生命力が感じられた。
数日後、工房のある香取市佐原に平松龍馬さん(37)を訪ね、創作について話を聞いた。「陶芸との出合いは大学の授業。職人に憧れ、卒業して益子へ。5年ほど基礎から陶芸を学び、器や皿などの実用品を作っていた。ある時、自然の傾斜を利用した登り窯での焼成の際、窯から出てきたものの中に自然に歪み、ひび割れた作品があり、それがおもしろく、魅力を感じた」。その後、作風に変化が現れ、亀裂を取り入れた個性的な作陶の道が開かれていったと話す。
鉱物や岩肌の写真を眺めて作品の構想を練ることもあるという。怖い話や日本の昔の怪談なども好きだそうで、それらが、作品が持つ不思議な魅力を生み出すベースになっているようだ。
「焼き物の器は、一番身近なアートであり、また日常に使えるのが良い」とする一方で、「今後は龍頭や真蛇面のような作品にも取り組み、創作の幅を広げていきたい」と意気込みを語る。
鮮やかな色彩と怪しさが混在する平松さんの作品世界。若き陶芸家は、想像力の空を自由に舞う龍のように、傑作を生み出し、これからも私たちを楽しませてくれるに違いない。
写真:龍頭オブジェ「阿」(個人蔵)