DRリポート 220

ふれあい毎日連載

唾液って必要なの?必要です!

日本大学松戸歯学部  生理学講座教授

吉垣純子先生

生理学講座教授 吉垣純子先生

普段から唾液がふんだんに出ている人からすれば、唾液って何しているの?唾液って必要なの?と思うことでしょう。実は、唾液の中には微生物の増殖を抑える抗菌物質がたくさん含まれています。細菌増殖に必要な鉄分を奪うラクトフェリンや、カビの一種であるカンジダ菌の増殖を抑えるヒスタチンが有名です。

様々な感染症から体を守る唾液

新型コロナウイルスは、ヒトの細胞表面に存在するACE2と呼ばれるタンパク質に結合することによって細胞に入り込み増殖することが知られています。最近、ヒト唾液中に存在するエラスターゼやヒストンH2Aと呼ばれるタンパク質がウイルスとACE2との結合を抑制することが、大阪公立大学の研究グループから報告されました。また、シスタチンと呼ばれる唾液タンパク質がコロナウイルスの複製を抑制することも以前から報告されています。唾液は様々な感染症から体を守っているのです。

ムチンの重要な役割

 唾液中にはムチンと呼ばれる潤滑作用を持つタンパク質が含まれています。これが口腔粘膜上を覆って乾燥を防いでいます。皮膚には表面にケラチン層と呼ばれる保護層がありますが、粘膜にはありません。ですので、ムチンの役割が重要です。

ムチン分泌が減少することによって、粘膜が乾燥して壊れやすくなり、痛みを引き起こします。私たちは食物を噛むときも、言葉を発音するときも、口腔内の粘膜を擦り合わせています。粘膜が壊れれば、どちらも痛みを伴うためにできなくなってしまいます。

さらにムチンは食物を飲み込む嚥下にも重要な役割を果たしています。食物を咀嚼して細かくしても、それだけでは飲み込めません。パサパサな粉末状態だと、うっかりすると気管に入り込みむせ返ることになります。

ムチンと混ぜてどろどろとした流動性のある食塊にまとめることによって、スムーズに食道に送り込むことができます。唾液が全く出ないマウスは食物の嚥下が出来ずに死んでしまうことが報告されています。唾液が減少すると物を食べるという行為も難しくなるのです。

ドライマウスでお困りの時は

 唾液分泌が低下すると口腔乾燥症、ドライマウスと呼ばれます。唾液分泌が低下する原因は様々ですが、一番多いのは薬の影響です。向精神薬や降圧剤には唾液を減らす作用があります。そのような薬の中には、唾液分泌に対する影響をあまり重要視しないで処方されている場合もあります。

血圧や神経に効く薬をお飲みになっていて、「口が渇く」「話しづらい」「夜に水を飲みたくなる」などの症状をお持ちの方は、ぜひ、本学付属病院でご相談ください(図)。原因となる薬を指摘できれば、医師と相談して唾液分泌に影響の少ない薬に変更できるかもしれません。また、唾液が少ないときにどのようにして虫歯や歯周病を抑えるか、口腔乾燥症の辛い症状を緩和する方法についても相談にのれる歯科医師がおりますので、どうぞご来院ください。

■日本大学松戸歯学部付属病院☎047・360・7111(コールセンター)。

図 ドライマウスと疑われる症状