金曜日の夕方、和室のテーブルに勉強道具が並べられます。
計算や漢字練習のプリント、ドリル、辞書。迷路、クロスワードパズル、塗り絵、将棋、折り紙…。
一見、勉強道具と言えるの?と思われるようなものもあります。おやつもあります。週一回の勉強会。参加も出入りも自由です。
めったに勉強会に顔を出さない南くんが来ました。おやつを食べながらゴロゴロしたのち「俺もなんかやろうかな」と、国語のプリントに手を伸ばしました。
南くんは難しい小説もスラスラ読む、読解力、想像力に長けた子です。代わりに文字を書くのは苦手。時間がかかるので人前で文字を書くことは避けています。
記号を選択するような簡単な問題に何枚か取り組み、段々と調子が出てきました。
「もっとやりたい」というので少しだけ文字を書く問題を出しました。小学3年生の接続詞の問題です。
問、次の二つの文章をつなぐ言葉を書きなさい
①腕時計を見た。 時計の針は止まっていた。
②望遠鏡をのぞき込んだ。 星がよく見えた。
正答は①『しかし』、②『だから』など。ですが、南くんは①と②の文章の間の空白に『だから』という言葉を書き入れました。①と②の文章をつなげたのです。
問いを読み誤っているから×です。でも私は唸ってしまいました。「腕時計を見ると時計の針が止まっている。だから望遠鏡を覗き込んだ」という所に、時間をしばし忘れて星でも見ようかという、なんだかロマンのようなものを感じ、普段小説を読んでいる南くんらしいなと思いました。感想を伝え、私は花まるをつけました。
「やっぱりおれは天才だな」とうそぶいた南くんは、その後、勉強会には来たり来なかったりでしたが、通信高校に進学し、今は大学生です。
不登校の子たちにとって勉強は私たちの想像以上にハードルが高いことです。自分の「できない」に向き合わなければならないからです。でもいざ扉を開いてみると、自分の「できる」こと、楽しいことが顔をのぞかせるかも知れません。温かく、淡々と見守りたいものです。
☎04・7146・3501 FAX同7147・1491(NPOゆうび小さな学園)杉山 麻理江