成田山書道美術館
明治の三筆 日下部鳴鶴 筆
「恵風和暢」(けいふうわちょう)
恵風和暢(けいふうわちょう)」とは王羲之(おうぎし)「蘭亭序(らんていじょ)」に出てくる言葉で、四字熟語としてもお馴染みです。「恵みの風がふき、心おだやかに和む」ことです。
永和9年(353年)3月、浙江省紹興市にある会稽山(かいけいざん)麓(ふもと)の蘭亭(らんてい)において名士たちが集い、禊(みそぎ)の儀式と曲水の宴を催しました。そこで「恵風和暢」は詠まれます。王羲之は中国4世紀の東晋時代に活躍し、従来の書法を飛躍的に高めたことでよく知られます。
この作品は、その名句を明治33年に日下部鳴鶴(くさかべめいかく)が書いたものです。柔らかい羊毛を使い、線は力強くも落ち着いた筆致で、自身の気持ちを投影しているようです。
近代書道史上、日下部鳴鶴は明治の三筆と呼ばれています。大久保利通の知遇を受け、新政府の太政官文書課に属し、書くことが公務でした。公用書体は、それまでの柔和で優美な印象の御家流(おいえりゅう)(和様書道の流派)から唐様(からよう)へ、新しい時代に新たな書へと変化をしていきました。
唐様といってもいろいろありますが、開国を迎え、特に感化されたのは東洋一の大国とされた中国・北朝の碑学(ひがく)(石碑などの書を学ぶこと)でした。それらは北の山間部にあって、険しい気候や厳しさを表すような書体で力強さがあります。富国強兵を求められた激動の明治期、自ずと書きぶりも力強さを求めたようです。
自粛でお花見も制限されそうな今春。それぞれに感じる「恵風和暢」を短冊に筆ペンでしたためてみるのも良いかもしれません。今号の「恵風和暢」は5月16日まで公開、3月号の大田蜀山人の七言絶句の作品は今月20日~5月16日まで公開します。(学芸員・谷本真里)
成田山の文化財
書・絵画・工芸
成田山書道美術館
開催中~5月16日まで
2018年に開基1080年を迎えた大本山成田山新勝寺が大きく発展したのは江戸時代。不動信仰の姿は様々なかたちに昇華され、成田山の諸堂を彩る工芸や書画などが数多くもたらされた。新勝寺や成田山文化財団の所蔵品を中心に、さまざまな時代の名品を展観。18日まで第37回成田山全国競書展を併催。
■主な出品予定作品
原羊遊斎「硯箱」、「七条」、狩野一信「十六羅漢図」、児玉希望「不動」、
以上、成田山新勝寺蔵。
「二月堂焼経」
成田山仏教図書館蔵。
開館9時~16時(入館15時30分まで)。月曜休館、入館料大人500円、高校・大学生300円、 中学生以下無料。
▽問☎0476・24・0774。