石山切伊勢集《書の力 第12回》

書の力

伝藤原公任(でん ふじわらのきんとう)筆「石山切伊勢集(いしやまぎれいせしゅう)」 一幅 平安時代 彩箋墨書 20.0×15.9㎝

雲母刷り(きらずり:岩絵具に細かく砕いた雲母を混ぜて刷ったもの)の文様や金銀泥による下絵が施された華麗な料紙(りょうし:経典やかな文字を書くときに使用する装飾された紙)、それに呼応して巧みに変化する散らし書きが一体となった「本願寺本三十六人家集」は、王朝貴族の美意識を反映した平安末期を代表する作品です。

明治二十九年(1896年)、歌人・大口周魚によって西本願寺庫裏(くり)
にて発見され、脚光を浴びることになりました。もとは糊綴じ(のりとじ)の冊子本でしたが、特に装飾のきれいな「伊勢集」と「貫之(つらゆき)集下」は裁断され、茶人で実業家の益田鈍翁(ますだどんのう)が「石山切(いしやまぎれ)」と命名します。これは白地の二重複丸唐草文様の唐紙に、抑揚の効いた筆致を展開させ、仕立ても豪華な一幅です。「石山切」は茶掛けとして賞翫(しょうがん:愛で楽しむこと)されました。 この作品は当館で2月20日まで開催する「うるはしのかな-平安古筆から現代まで」展に出品します。流麗な平安時代の作品から現代の大字仮名まで多彩な仮名作品をご覧いただけます。初詣とともに、華やかな仮名の世界をお楽しみください。(学芸員・田村彩華)