書の力 第三十四回「化城と宝城」

ふれあい毎日連載

杉岡華邨(1913-2012)

昭和63年日展

紙本墨書 一面 165.0×43.0 

成田山新勝寺蔵

平成12年(2000年)文化勲章受章者、杉岡華邨(すぎおか かそん)による作品です。華邨が、成田山全国競書大会の書道交流団の団長として中国に行った際に、席上揮毫で書いた題材で、のちに書き直したものです。当時の成田山新勝寺の貫首、鶴見照碩(つるみ しょうせき)上人と交流し、法華七渝(ほっけしちゆ)(お釈迦様がたとえ話によって生きとし生けるものにわかりやすく教えを説いたもの)第四に着想を得ました。

“人びとが宝を求めて旅をつづける途中、挫折しそうになります。そこで一人の導師が幻の城を現します。人々はすっかり心をとりなおし、導師は宝のある場所へと導き続けました。”

個の人生に重ねていろいろな解釈が出来そうです。禅美術の思想を久松真一に学び、洒脱かつ空間美の妙を得て、現代かな書の本流を切り拓いた華邨が、自身の書の道に重ねてしたためたのでしょうか。また、そんな華邨の近くに宝所はあったのかもしれません。

修行や困難に打ち勝つための視点や発想の転換の大切さ、真実の目的や目標に向かうことへの尊さに気づかされるようなこの言葉は、今日の私たちにとっても激励のメッセージとなって心を打つものがあります。(学芸員 谷本真里)

釈文:まほろしの城 宝所はちかきにあり