I have a dreamから60年

K太せんせいの「放課後の黒板消し」

 

2023年は、黒人差別撤廃を求めるアメリカ公民権運動を非暴力で牽引したマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の歴史的な演説から60年の節目の年です。

I have a dream(私には夢がある)」力強い眼差しと声で25万人の群衆に訴え掛けるキング牧師の姿を私が初めて見たのは、中学校の社会の時間でした。ショッキングな差別の資料映像の最後に演説が流され、その時心臓をぎゅっと握られるような感覚がしたことを今でも覚えています。

 そして中学2年生の夏、私はどうしてもキング牧師があの日見ていた景色を見てみたくて、ワシントンのリンカーン記念堂の前に立ちました。記念堂には奴隷解放宣言をしたリンカーン大統領の大きな石像があります。それを背に、キング牧師は演説したのです。

さて、ワシントンの国立アフリカ系米国人歴史文化博物館が先日、キング牧師の演説原稿を展示しました。そして衝撃の事実が…三枚の原稿にはあの有名な「夢」の一節がどこにも書かれていなかったのです。そう、あの日キング牧師はスピーチ後半で原稿を読んでいなかったのです。

 「I have a dreamそれはいつの日かジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちと、かつての奴隷所有者の息子たちが兄弟として同じテーブルにつくという夢である」「I have a dreamそれは、いつの日か、私の4人の幼い子どもたちが、肌の色によってではなく、人格そのものによって評価される国に住むという夢である」。

I have a dreamと叫ばれる度に熱を帯びていく「夢」たち。用意された台詞ではない魂の言葉の力が私たちの心を揺さぶります。

最後に、今年の記念行事でスピーチされたキング牧師の孫娘ヨランダさんの言葉を紹介します。「もし、おじいさんと話ができるとしたら、『ごめんなさい』と言いたいです。私たちはまだおじいさんの仕事を完成させられずに、同じところにいます。人種差別も貧困も、依然として私たちと共にあります。銃による暴力が、礼拝所や学校、ショッピングセンターで起きています」。15歳の少女が語る現実。私たちも今一度受け止め直さなければなりません。

■K太せんせい現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。