K太せんせいの放課後の黒板消し83

K太せんせいの「放課後の黒板消し」

文学の窓〈初春に短歌を~俵万智〉

明けましておめでとうございます。お正月は穏やかに過ごされていますか。

この正月が落ち着く頃、毎年1月7日は一年の最初の節句である「人日の節句」に当たり、昔から「七草がゆ」を食べる習わしがあります。「春の七草」の若芽を食べて植物がもつ生命力を取り入れ、無病息災でいられるように願うものです。 百人一首にも光孝天皇が「君がため春の野に出でて若菜摘むわが衣手に雪はふりつつ」と詠んでいます。この時代から「若菜摘み」も慣例的な行事だったようです。お正月に百人一首をする(坊主めくりでもOK!)時には少し思い出してみてください。

さて、現代の短歌と言えば「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」で有名な俵万智さんです。

会話体を導入した口語定型歌と呼ばれるスタイルで日常の機微を切り取っては素敵な歌を詠まれます。全体の音の数は31音でありながら、「この味がいいね」と初句、第二句を区またがりで書くことで口語(普段しゃべる言葉)感を強めるなど巧みな技術が見られます。

この歌が表題の第一歌集『サラダ記念日』には他にも、寒い時だからこその温かさを詠んだ「『寒いね』と話しかければ『寒いね』と答える人のいるあたたかさ」という歌があります。

 実は俵万智さんは大学卒業後の5年間、高校の国語教員でした。きっとその頃のことを詠んだであろう「うちの子は甘えんぼうでぐうたらで先生なんとかしてくださいよ」「古文漢文の解答欄の余白には尾崎豊の詞を書いてくる」という歌には、同じ教員として「分かる」となってしまいます。

お正月、年賀状のやり取りも大切にしたい心の交流です。「一枚の葉書きを君に書くための旅かもしれぬ旅をつづける」絵はがきが思い浮かぶ人もいるかも知れませんが、1年に一回の年賀状に添える一言を考えるとき、私はこの歌が思い浮かびます。

■K太せんせい

現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。