書の力 第二十三回

ふれあい毎日連載

伝光明皇后筆 蝶鳥下絵経 装飾法華経譬喩品第三 

平安時代 彩箋墨書 23.9×18.4㎝

香紙(こうし)(丁子(ちょうじ)などで染めた紙)の料紙(書に用いる装飾加工紙)に、金銀を主に緑青泥を用いて蝶、鳥、草花、折枝などの下絵を一面に描いています。丁子を煮出した煮汁で染めた黄赤色の紙は古くから尊重され、防虫の効果を果たしていました。虫喰いを防ぐことは写経用紙としては都合がよかったのです。

整った文字は穏やかな和様体。女性的な趣を感じさせることから光明皇后の筆跡と伝称されていますが、光明皇后よりずっと後世のもので、平安時代中ごろのものと推定されています。平安時代に盛んに書写された『法華経』が書かれており、もとは一巻だったものの断簡(だんかん)(切断された書き物)です。

染紙に金銀泥で蝶鳥草花などを描き、さらに文字は優美な和様の写経。平安貴族の美意識を反映した作品です。(学芸員 田村彩華)