釣り好きから、モノ作りへ
鎌ケ谷市
「この道を志したのは、釣り用のバックを作る職人がいなくなると知り、サラリーマンを辞めて革製品制作の道を選んだ」と語るのは森無著(もりむじゃく)さん(33)。鎌ケ谷市の工房で皮製のバックや手帳カバーなどを制作して6年になる。作品は通販などで販売している。
「幼い頃から物作りが好きで、小学生の時から釣りのルアーや浮きなどを手作りしていた」。サラリーマン時代は広告営業をしていたが、これは自分以外の人でも出来ると思い、退職してバックスクールに入学し、技術を学んだ。
「ヘラ鮒釣りが大好きで、釣りに必要なバックや座布団などにも興味が湧いた。釣り用の座布団は自分で手織している。適度な硬さがあり、釣りの愛好家には喜んでもらえている。素材はFRP(繊維強化プラスチック)を用いる。オーダーでこのような座布団を作る職人は少なく、中国や韓国からも注文が入る。
「革や木が好き。手触りや温かさ、経年変化も感じられるところが革製品の魅力」と話す。
名前の「無著(むじゃく)」は本名だ。運慶一門によって作られた「無著・世親菩薩像」から取って名づけられた。執着しないこと、何ものにもとらわれないことを示すのだとか。
森さんは「自分が作りたいものを作品にする。たとえばランプバック。背負って夜道を歩くと光る。だが、何もないところから作り出すのは想像以上に難しい」と、その苦労を語る。現在の関心事は命や素材のルーツだ。「父は油絵の修復師。作品を修復する過程で創作の秘密が解き明かされて行くと話す。もの・革・命の繋がりを探求していきたい」と目を輝かす。
作業机の上には黒田未来雄著「獲る 食べる 生きる」という書物が置かれていた。狩猟に同行し、鹿を狩り、解体することを計画中だ。どこにでも出向くフットワークの軽さで新しい世界を体験し、これからも、ものづくりに生かしていくことだろう。
●次回は山野井誠さんにバトンを渡します。