蒼くも、明らかな息吹

レイソルコラム

 柏レイソルは7月10日、第104回天皇杯3回戦を戦った。対戦相手は井原正巳監督や戸嶋祥郎、高嶺朋樹らの母校・筑波大学蹴球部だった。延長戦までもつれた一戦は木下康介と細谷真大のゴールで2ー1でレイソルが勝利。ベスト16への進出を決めた。

 同2回戦で町田ゼルビアを破って大会の注目をさらった筑波大には3人の柏レイソルアカデミー出身者が在籍しており、彼らの存在はこの一戦への解像度を際立てた。果たして、彼らはどのような思いを日立台から持ち帰ったのだろうか。

 まずは田村蒼生。4年生の田村にとってレイソルと対戦は第102回大会以来、2回目。田村の左からのアタックはレイソル守備陣を悩ませた。

 「自分らしさやこの4年間の成長を見せられたと感じてはいます。でも、最初のシュートは力が入ってしまいましたし、2つ目の決定機はタイミングが合わなかった。やはり、勝負事なので、結果は悔しかった。町田戦ではプロと張り合える力を示せた。『このプロとの2試合で自分の力を示す』と誓っていましたし、町田戦は運で勝てたわけじゃないことを自分たちは日立台で証明できたはず。自分の大好きなスタジアム・日立台でまた試合をできたのは特別なことで幸せでしたが、ゴールを決めた細谷真大選手が全く喜ばなかったのは『リスペクト?』と思いましたが、悔しかった。まだ対等に見られてないなと感じました」

 2年前は涙にくれたが、「今回は泣いていません…ギリギリ」。田村は強くなり、あるシーンで感じた戸嶋の迫力から多く学んだ。

 2年生の徳永涼はアカデミーから前橋育英高校を経て筑波大学へ進んだ。まるで自分の成長にフォーカスを当てて辿ってきた道を示すかのような力強さとボール扱い、地に足の付いた振る舞いは印象的だった。

 「自分にとって5年ぶりの日立台。不思議な感覚でした。『楽しみしかない。失うものもない。やってやる!』と臨めていました。この試合は1つの目標でしたし、自分の中で自分を分析していて、出場する自信はありました。ボールを運ぶことはできた。最後のパスに課題を感じたのはプロと戦って得られた感覚だと思います。苦労して続けてきたことがこの試合で形になりつつありますし、『最初の一歩目』とできました。日立台ではサポーターの方々のたくさんの温かい声援や旧知のスタッフのみなさんも温かさに触れ、『レイソルの温かさ』も感じました。自分の中で特別な一日となりました」

 近くには2年前の特別な一日をバネにした先輩がいる。彼に続く以上は超えていかなくてはならない。

 今大会、「学生ヘッドコーチ」として話題となった戸田伊吹。アカデミー時代はピッチで仲間たちを操る選手だったが、今はピッチサイドから選手たちを操る。

 まずはレイソルに『縁』を持つ1人の若者としてこの日の経験をこう話した。

 「佐々木雅士を迎えるコールが始まって、試合前から『やっぱり良いスタジアムだな』って感じました。このスタジアムでこんなにも早く戦うなんて思ってもいなかったですが、レイソルを倒すことに燃えていました」

 そして、筑波大学蹴球部ヘッドコーチとしての話を求めると穏やかだった表情は一変した。

 「たくさんの注目をいただいてもいたので、『必ず良い試合をしなければ』という重圧もありました。勝機が全く無かったわけではない点で悔しさはあります。準備していた形で戦うことはできていながらも、徐々に適応されて、ゴール前や最後のところで叶わず、『プロの質』を見せつけられたのも事実。『指揮官』として、交代やそのタイミングも含めて、『もっとできたな』と思わされましたし、自分の今の実力というか、足りない部分を思い知らされた。でも、やれることをやったから得られた悔しさや充実感があって、これを良い分岐点にしたい。ただ、自分の仕事はボード上のコマを動かせばいいわけではないですから、今は『指導者』として、選手たちを上手くしてあげたい。各々の能力値を上げ、できることを増やしてあげたい。その『学び』を得た一日になりました」

 1人は「次のステージ」を視野に捉えながら自分を磨く時期。もう1人はその背中を見て育ち、またその背中に続く。そして、もう1人は濁りのない瞳で「いつかレイソルをJ1で優勝させたい」と誓う。それぞれの立ち位置からこの日に持ち帰ったものは、こちらが余計な説明を施すことをためらうほどに蒼く、また尊い。

(写真・文=神宮克典)