岩下航という「立ち位置」

レイソルコラム

 勇ましい歩みを続ける2022シーズンの柏レイソル。小屋松知哉選手や中村慶太選手ら新加入選手の活躍がチームによい新風をもたらしているが、次に吹く風は彼かもしれない。J3・熊本から加入したDF岩下航(わたる)選手だ。


 岩下選手は左ウイングバック(WB)を主戦場としている。レイソルでのデビューは2月のルヴァン杯京都戦(1‐1)。雪が舞う中でのデビューだった。


 「あの週初めの練習で、監督から『京都戦はリーグ戦とは違うメンバーで戦うことになる』とお話があって、気持ちを新たに練習に臨んで、スタメンだと分かった日はうれしかったですが…うれしさよりも『やってやる』という気持ちが強かったです」


 左WBとして出場した岩下選手。立ち上がりに同サイドから失点を許すも、大谷秀和選手やドッジ選手らとの連携から徐々に存在感を見せ始め、勇敢なボール奪取、ボールへの執着心、深く攻め入ってのクロスなど見どころを作ってみせた。


 「京都がアグレッシヴにくることは分かっていました。プレッシャーの強度は予想していた以上でしたが、来てくれた方が自分の良さが出せると感じていましたし、やり甲斐もあって楽しんでいました」


 ルヴァン杯では、その後もコンスタントに出場している。ほぼリーグ戦のメンバーで臨んだ3月の鳥栖戦では66分から出場。サイドで幅を出すだけでなく、中盤ではMFとして振る舞ってからサイドを狙うなどモダンで柔軟な判断を披露していた。また、4月に入ると右WBでもプレー。J1レベルでも可能性を示した。


 「1対1の場面が多いポジションなので、負けていては試合になど出られない。目の前の相手に勝つために攻守に運動量を出していくのがレイソルのWB。まずは守備での1対1で相手に勝つことを特に意識しています」


 組織的なボール奪取と精度の高い速攻を特長とする今季のレイソル。ボール奪取に向けては前線から各々が局地的1対1で勝ち、連鎖させていくことが最重要なタスク。


 また、WBはシステム特性上、背後のスペースの奪い合いが頻発する。今の岩下選手には、DFとして物怖じせず相手へ迫る勇敢さ以上に、自らの攻撃能力を活かそうという意識が芽生えているという。本来攻撃的な選手。レイソルという新天地での発見は「攻撃時の立ち位置」だった。


 「まだ、『立ち位置』を指摘される場合が多いのでそこは自分の課題です。『パスを巧く回すにはどんな立ち位置を取るべきか』常に考えながらプレーしています。1つのミスが失点に繋がりますから、今はたくさん学べています」


 新チームが始動して約3ヶ月。明らかに出場機会も増え、現状視界は悪くない。チームメイトと笑いながらボールを蹴り合う姿も目立つ。


 「練習の中でも自分らしさが出せるようになってきた。出場機会が増えたのは練習に対する監督の評価だと思いますし、さらに結果を求めてプレーしていきたい。結果無しにはこのチームで生き残っていけないので」


 23歳になったばかりで、まだ伸び盛りの岩下選手。ピッチ上とは異なり、「人が集まる場所は得意じゃなくて」という穏和な素顔を覗かせながら今後の意欲をこう話す。


 「4月1日で23歳。自分の背番号も23ということで、今年は良いシーズンになるような気がしているんです」


 火の国からやってきたグッドガイはどんな風を吹かせてくれるのか楽しみにしておこう。

(写真・文=神宮克典)