DF田中隼人選手は鋭い眼光でボールの行方を見つめていた。初めて見る表情だった。
チームメイトが倒されれば、大きな声を上げていた。
…だが、まだそこはピッチの外。ベンチ脇からだった―。
屈強な守備陣が奮闘を続ける今季、J1リーグでのベンチ入りはあれど、出場機会となると限定的。今はまだルヴァン杯と天皇杯からリーグ戦出場を狙う柏レイソルの若手の1人というのが、現状の田中選手のステータスだが、彼にはもう一つの顔がある。柏U‐15時代から継続して選出されている年代別日本代表としての顔だ。
去る5月、U‐19日本代表に選出された田中選手はフランスはマルセイユ近郊で開催された「第48回モーリスレベロトーナメント」にエントリー。田中選手はアルジェリア代表戦とコロンビア代表戦に出場した。
「久々の国際大会でしたが、チームとしては『世界との差』を感じる結果となりました。個人的には『このレベルの相手ともできる』という感触を得られた。プロになって終盤に失点を喫することが多く、その経験を必ず活かさなくてはと臨んでいて、『個の戦い』で言えば、感触は良かったです。特に初戦のラストプレーで決定機を阻むことができたのは自分の意識が表れた結果だと思います」
絶えることなく選出されている同代表の国内合宿でもリーダーシップやコーチング、潜在能力を見せつけて掴んだ国際大会出場で得た「自信」という南仏土産を携えた田中選手は、年代別代表チームに於けるモチベーションをこう話す。
「自分はまず、『選手として経験』が足りていない。特に自分はCBとしてプレーする選手。実戦経験が成長へ欠かせません。年代別代表の試合で経験を積むことも今の自分にとってとても貴重な時間。フランスでは2試合・180分間プレーできたので、この機会や経験をプラスにしていきたいです」
そのモチベーションから掴んだ経験を大きく放つべく捉え続けている明確なターゲットがある。田中選手はほぼ同時期にウズベキスタンで「AFCU23アジアカップ ウズベキスタン2022」戦っていたパリ五輪世代・U‐21代表への強い関心と見逃すわけにはいかない指標となる存在への競争意識を隠さない。
「同日開催が多くライブでは見られなかったのですが、試合映像は見ていました。今は1つ下の世代のU‐19でプレーしていますが、ずっとコンビを組んで戦ってきた同い年のチェイス・アンリ(シュツットガルト)が今回U‐21代表へ呼ばれました。試合を見て、『やれる』という自信と『自分に何が足りないのか』など思うところはたくさんあった。自分も必ずU‐21代表へ加わりたい」
ターゲットとの距離はまたある。だが、レイソルで屈強な守備を学ぶという環境、素晴らしい経験を積む機会、少し先をゆくライバルにも恵まれた。そして、パリへと繋がる道は奇しくもウズベキスタンにある。U‐19代表は9月初旬からマレーシアで開催予定の「AFCU20アジアカップウズベキスタン2023予選」という上を狙うには最高の舞台が待つ。田中選手は自信を込めて今後の展望を口にした。
「パリ五輪まであと2年。その時間で差を埋めたい。この2年間を必ず良いものにして、最終的にパリ五輪で戦っていたいです。自分の中にそのイメージはあります」
南仏の強烈な日差しを浴びて精悍さを増した田中選手の中にある鮮明なイメージ。その成就へ向けた次のステップに注目だ。
(写真・文=神宮克典)