リーグ戦と並行して行われているルヴァン杯。8月5日の湘南ベルマーレ戦において、後半27分から投入されプロ初出場を果たしたMF鵜木郁哉は、翌週の大分トリニータ戦では初のスタメンフル出場を果たした。
「湘南戦では守備を第一に臨んで役割を果たせましたが、大分戦は前半で自分が交代になっても驚かないくらいの内容でした」
鵜木はそう回想した。ポジションは彼の得意とする左のMFだったが、対面した大分の右サイドに幾度となく押し込まれ、前半の多くの時間を守備に割くことになったからだ。
「チームのオーガナイズ通り右サイドへの対応を優先しました。前半は守備に掛かりきりで攻撃では消極的になってしまい、『…交代かな』って。後半は選手交代をして先制もできて、チームが乗った流れに自分もうまく加わることができました」
DF古賀太陽とFW細谷真大を投入して攻勢に転じた後半のレイソルは、細谷とDF北爪健吾の2ゴールで快勝。鵜木も左サイド最深部からのチャンスメイクだけでなく、中央へ進入してポストを叩く惜しいシュートを放った。
70分。CKのキッカーを担った鵜木は高橋峻希とのパス交換。一度足裏でボールを滑らせてから迷いなく右足でクロスを放った。ボールは鋭いカーブを描きながら北爪の頭上を捉えた。
この形、鵜木には確信があったという。
「健吾くんは色々な話をしてくれますし、励ましや助言をくれるんです。日常的に一緒にトレーニングをさせてもらうことも多く、あの形も繰り返し繰り返し、お互いの役割を入れ替えながら練習してきました。健吾くんにアシストできてよかったです」
ゴールを決めた北爪はこの日のヒーローに。努力の成果であるゴールの瞬間、鵜木は握り拳を強く振り下ろして喜びを表現した。
上々の結果を踏まえ、鵜木は守備面での課題も口にした。FW瀬川祐輔やMF仲間隼斗らのプレー強度が今は鵜木の明確な手本となっているようだ。
「何度かボールを奪えましたが、守備で貢献できた実感はなくて、もっとやれることがあると痛感しています。パスやセットプレーの質は思った以上に通用した感触はありましたけど、瀬川くんや隼斗くんのようにもっと守備をこなした上で、ゴールやアシストに絡めなければ、試合へ出られないと思うので」
ここまでのキャリアはレイソル一筋。少年時代はドリブルキングだった。一度ボールを収めれば、相手を2、3人抜き去って涼しい顔でゴールネットを揺らすアタッカー。一つ一つのパスを大切に連ねていくチームには稀有な存在だった。そんな鵜木の転機は日立台の人工芝と天然芝のグラウンドを行き来した昨シーズン。
「アカデミーでは『周りを動かす・活かすこと』を学び、トップでは『攻守においての1対1』を学んでいました。Uー18では途中まではドリブルばかりしていました。トップチームでネルシーニョ監督に指導を受けるまではずっと。数年前は自分のスタイルを明言できなかったですけど、今は少しずつ整理されてきている感触はあります」
喜び勇んで参加したトップチームで目の当たりにしたのは、瀬川や江坂任、マテウス・サヴィオが戦術に忠実に、ある時はボールホルダーに食いつき、ある時はマイボールにするために組織的な守備に奔走し、そして、フィニッシュへ駆け出す姿だった。
一方、Uー18では背番号10。ジュニア年代からの攻撃性を残したまま、左サイドを中心とした攻守のスイッチ役として存在感と違いを見せ、セットプレーも担うなど、鵜木の1試合に於けるプレー機会はとても濃密だった。
一時は「練習試合で経験して以来、やってみたいポジション」と、右SBへも高い関心を示していた。
育成年代の仕上げとして守備のディテールを吸収し、さらに今と向き合うプロ1年目。大分戦の後半の働きぶりは鵜木の現状の理想にかなり近いのではないだろうか。
「この2試合、まだ課題はありますが、前から連動していく守備にはうまくいった感触はあります。でも、まだまだゴールに絡むシュートチャンスを作れていない点が悔しいです。今はドリブルが通用している手応えがあるので、1対1の場面からシュートやクロスへ持ち込めたら…あのポストに当てたシュートは決めなきゃでしたね」
では、「少しずつ整理されてきている」という現状のスタイルはどのようなものなのだろう。
「自分にとってドリブルは大切な技術ですけど、個人での局面打開より、最後の場面で使いたい。もっと、頭を使ってチームのチャンスメイクやゴールに直結する選手になりたいし、守備もできて、攻撃では場面ごとに最良の判断ができるよう、常に頭を使ってプレーすることができる選手に自分はなりたいです」
鵜木郁哉が立っているのはまだほんの入口。次回の機会にはどんなプレーを見せてくれるのだろうか。
(写真・文=神宮克典)