K太せんせいの本棚25 『夏の騎士』百田尚樹著

K太せんせいの「放課後の黒板消し」

 

 『夏の騎士』は百田尚樹版「スタンド・バイ・ミー」と言われる、一夏の冒険と友情を描いた物語。お話は「勇気―それは人生を切り拓く剣だ」という一行から始まります。 

主人公は小学校最後の夏を迎えた「意気地なしで臆病な」ぼくと、「体は大きかったが、女の子にも口げんかで泣かされてしまうほど気が弱かった」陽介、「いつもクラスでポツンとひとりだった」健太の三人。

ある日『アーサー王の物語』に感動したぼくは、王を助ける「円卓の騎士」に憧れ、秘密基地で「騎士団」を結成します。ぼくが申し出ると「強くて、名誉と勇気を重んじるーええなあ、騎士団」「お、俺たち、騎士団を作ったら、そ、そんな風になれるかな」と二人も期待を込めます。

大切なのは、勇気があって強いから騎士になるのではなくて、自分たちを変えたいと思ったその時に一歩を踏み出していることです。

ぼくは二人に答えます。「なれるよ」「それを目指せば、きっとそうなるんや。ひとりやったら無理かもしれんけど、三人おったら頑張れる」と。

この後、彼らはある謎をめぐる冒険をしていくことになるのですが、そこに小さな恋のスパイスも加わります。

ヒロインは同じクラスの有村さん。「騎士にはもうひとつ大事なことがあるんや」「レディに愛と忠誠を捧げることや」実はこのお姫様への思いも騎士団結成の理由なのです。

ある日の休み時間、騎士団は崇拝するレディこと有村さんに、ある宣言をします。しかし、それをクラスの皆は笑うのです。「たしかに、ぼくらはクラスの落ちこぼれや。…そやけど、いつかはちゃんとした男になりたいと思てる。そやから、騎士団を結成したんや。それを笑いたかったら、笑ったらええ」これに有村さんだけは笑わず「ありがとう。うれしいわ」と答えるのでした。

緊張と嘲笑の中で発揮した勇気。これも立派な騎士道精神だと思います。三騎士の一夏の成長を追いかけてみませんか。

■K太せんせい

現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内などを執筆する。