K太せんせいの放課後の黒板消し 65

K太せんせいの「放課後の黒板消し」

 いま、沖縄を想う

 2022年5月15日。この日、沖縄県は本土返還50周年を迎えました。現在放送中の朝の連続テレビ小説でも返還前後の沖縄が舞台となり、ドルでの支払いや渡航証明書(パスポートの代わり)を使っての本土への渡航が描かれています。

さて、国語の授業では戦争教材を扱うことがあります。悲しくつらい過去が「かわいそう」で終わってしまわないように。心に刻まれた戦争に本当の意味の「終結」は訪れないという、過酷な現実を知り、だからこそ二度と起こしてはいけないと伝えてゆくために。 

たとえば終戦記念日を念頭に、一学期の後半では「夏の葬列」(山川方夫)を読みます。終戦直前の夏に疎開先で起こった悲劇が、十数年の時を経て再び新たな悲しみを生み、二つの十字架を背負って生きることを決意する男が主人公のお話です。夏が来る度に背負った十字架が思い出される……戦争に終わりがないことがひしひしと伝わってきます。

二度の原爆投下に対しては、井伏鱒二の「黒い雨」が夏休みの課題本になることが多いです。

また、沖縄戦の組織的な戦闘が終結した日は6月23日です。その日に向けて「ウミガメと少年」(野坂昭如)を扱います。「鉄の暴風」とよばれた凄まじい艦砲射撃の中を逃げのび、一人たどり着いたガマ(洞窟)でウミガメの卵を温めながら生きる少年が主人公です。大切に「命」を育みながら、一方で飢餓に苦しみ、最後にはその命を食し海へと消えていく……。「お話」なので少年の死はウミガメに生まれ変わったかのように描かれていますが、その目を通して描かれたものは全て悲劇の史実であることを生徒たちは知るのです。

一方で、迎えた6月23日の報道で、沖縄戦終結についてはあまり扱われていないことにも気づくことになります。少しの憤りを感じつつ、何故なのか、何が出来るのか、生徒たちは考えます。これこそが戦争教材の大きな意義と言えるのではないでしょうか。

■K太せんせい

現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。