放課後の黒板消し62
文学の窓〈文学忌〉
作家や詩人、歌人などの忌日(命日)を「文学忌」と言います。作家の文学的な業績に想いを馳せ、語らい、偲ぶ日とされています。
名称には「漱石忌(12月9日)」のように作家の名前がつけられる場合もありますが、業績を偲ぶ日とあって、その作品や雅号にちなんで名づけられることも多いです。
たとえば、芥川龍之介の文学忌は「河童忌(7月24日)」。生前に好んで河童の絵を描いていたことや、『河童』という短編小説を書いたことにちなんだものです。また、俳号の「我鬼(がき)」に由来して「我鬼忌」とも呼ばれています。
さて、これと並んで有名な文学忌といえば太宰治の「桜桃忌(6月19日)」ではないでしょうか。実はこの19日は命日ではなく、13日に玉川上水に入水した太宰の亡骸が発見された日であり、それが奇しくも太宰の誕生日と重なったことに由来します。
死の直前に書いた短編『桜桃』では“蔓(つる)を糸でつないで、首にかけると、桜桃は、珊瑚の首飾りのように見えるだろう”と、宝石の如く表現された「さくらんぼ」。太宰の好物だったそうで、今でも桜桃忌にはその墓前にたくさんのサクランボが供えられます。
偲んでみれば『津軽』の末文に書かれた「命あらばまた他日。元気で行かう。絶望するな。では、失敬。」という一節がまるで私たちへのあいさつのようにも思われますね。
詩人三好達治は『檸檬(れもん)』の作者梶井基次郎の死を偲んで「友よ 友よ 四年も君に會はずにゐる……(中略)君の手紙を讀みかへす ――昔のレコードをかけてみる」と詩を詠みました。きっと「檸檬忌(3月24日)」のたびに友を思っていたのでしょう。
実はこの日は「レモン忌」でもあります。詩人高村光太郎の妻、智恵子の忌日でもあるのです。智恵子の臨終をうたった光太郎の詩「レモン哀歌」にちなんでカタカナの場合はこちら。文学的で素敵な一致だと思いませんか。
■K太せんせい
現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。