放課後の黒板消し61
文学の窓〈漱石と三部作〉
夏目漱石は明治から大正時代にかけての文豪です。旧千円札の肖像としても有名ですね。近年(2014年)には代表作の一つである『こころ』を当時連載していた新聞上で再掲する連載100周年のイベントも行われました。また、漱石生誕150年を記念して、2017年には新宿区に「漱石山房記念館」が開館しました。
現在の国語の教科書では『夢十夜』や『こころ』が掲載されています。100年以上前の作品を現代文として今を生きる高校生が読んでいるのです。
たとえば『こころ』では「日本の習慣として、そういうことは許されていないのだという自覚」という部分に当時の感覚の違いを知ったり、一方で「私は極めて高尚な愛の理論家だったのです」という表現に、カッコ良く言っているけど、相思相愛が理想ということなら同じだな、と思ったり……授業ではワイワイ感想を持ちながら読み進めます。
さて、作品を読むときに大事な視点の一つがテーマです。漱石作品にはこのテーマを追う一つのヒントがあります。それは「三部作」と呼ばれるくくりがあることです。
実は、夏目漱石が小説作品を書いた時間は『吾輩は猫である』からわずか10年間ほどです。その中で『三四郎』『それから』『門』を前期三部作、『彼岸過迄』『行人』『こころ』を後期三部作といいます。
三つの独立したものが互いに関連しながら一つのテーマを追う三部作。前期三部作では人間の自我や愛がテーマ、後期三部作ではより人間の孤独や不安などに焦点を当てた作品になっています。後期は特に我執(自分だけの狭い考えにとらわれること。利己主義=エゴイズムに通じる)が追究されています。主人公たちは作品を追う毎に、自我に苦悩し、狂気に陥り、遂には遺書を残すに至るといった姿で描かれていきます。
『こころ』の中で最も有名な台詞「しかし君、恋は罪悪ですよ」の意味するところとは……。漱石が残したテーマと重ねることで紐解いてみましょう。
■K太せんせい
現役国語科教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。