今回ご紹介する『夜明けのすべて』は、人びとのつながりをささやかに照らしだす、まさにかけがえのない物語です。本作の原作は、『そして、バトンは渡された』の瀬尾まいこによる同名小説。
朝ドラ『カムカムエヴリバディ』での夫婦役も記憶に新しい上白石萌音と松村北斗を主演に迎え、
『ケイコ 目を澄ませて』で高い評価を得た三宅唱が監督を務めました。
PMS(月経前症候群)を抱え、生理前になるとイライラを抑えられなくなる藤沢さん(上白石萌音)。彼女はある日、やる気がなさそうに見える同僚・山添くん(松村北斗)のちょっとした行動に、怒りを爆発させてしまいます。
一方、山添くんもまたパニック障害を抱え、電車に乗れないなど、さまざまなことを諦め、生きがいも気力も失っていました。ふたりは、少しずつお互いの事情と孤独を知り、いつしか友達とも恋人とも異なる、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていきます。
本作のカメラは、ふたりの日常を淡々と映しだします。それでも観客を惹きつけてやまないのは、カメラがふたりに優しく寄り添い続けているからではないでしょうか。その心地よさを、ぜひ当館で味わってみてください。
(キネマ旬報シアター 長谷部)