「そのエビデンスとその機運」・後編ー上島拓巳

レイソルコラム

 「今までは『上島拓巳』というサッカー選手が何者なのか全然認知されていなかったと思うんです」

 上島は福岡の1年での最大の収穫について言葉を続けるー。

「…もっと言えば、東京五輪世代であることも。徐々に結果を出して、リーグの月間最優秀選手賞もいただけたり、最終的にチームも昇格を果たすことができたことでサッカー界での認知は上げられたはずですし、日本サッカー協会のスタッフの方々が視察に来てくれていたとも聞いています。まだ自分は選出はされていませんが、自分への視線は変えられたのかもしれない。サポーターだけじゃなく、サッカー界での『認知』を獲得できたんじゃないかという感触は収穫としてありますね」

 思えば、3CBの中央で頭角を現した2019年のデビュー戦後のミックスゾーンでも、明確に「東京五輪日本代表を狙っています」と言及していたし、福岡へ移ってからは左手首のバンデージには意志の強さをそのまま表すような強い筆跡で「東京五輪」と書き込んだ。キックオフ前には文字の部分を強く握りしめて、その決意を再確認していた。

 上島にとっては「夢」というより、「ターゲット」ー。今や3CBでも2CBでも逞しく輝ける選手であることを証明した。自信を武器に東京五輪とその先にある日本代表へ照準を合わせていた。Uー17以来の代表入りという上島の中に生まれたこのモチベーションはもう止められない。

 さらに上島はこう続ける。

 「対人守備での『自信』がすごく大きいです。ヘディングでも勝つ、スピードでも振り切られない。対人守備で負ける気がしない時期もありました。J1勢相手でも負けない『スケール』を意識して表現することは今年のテーマだった。まだJ1の選手たちや代表選手たちと同じ土俵に立てていないので、もう一度しっかりと立って、また高い目標を据えて、成長スピードを維持して、自分の価値を高めていきたい。その自信は身に付けたつもりです。『スケールやポテンシャル、積んでいるエンジンが違うからね』って」

 2CBでプレーすることでボールへの反応は鋭さを増し、空中戦は「無双」状態。以前は自身の最大の特長として拘りを持っていたパスやフィードも、あくまで引き出しのひとつとしていつでも発揮できる状態だ。そんなスケール豊かなDFとしての理想像は固まった。

 「やはり、自分は『スケール』が大きな選手でありたい。色んなタイプのCBがいますけど、自分が特に素晴らしいなと思う、代表的な存在である吉田麻也選手(サンプドリア)や冨安健洋選手(ボローニャ)、渡辺剛(F東京)といった選手たちは総じてプレーのスケールが大きく、サイズや身体能力的にも優れた選手なので自分も近づきたい」

 アビスパ福岡の中心選手として戦っている間も「柏レイソル」は常に上島の中にあった。レイソルの一員として経験したJ2リーグを別のチームでもう一度戦う以上、不要なエラーは許されなかった。

 「2019年にレイソルでJ2で戦っていたのはとても大きかった。苦しい時期も経験した。そのチームが今J1で活躍している部分も自分には重要で、自分も続くことができると信じています。『2019年のレイソル』と『2020年の自分』という時系列を上手くスライドできればって思うんです」

 「スライド」という言葉を選んだが、そんなに簡単なことではないことは上島が一番理解している。前向きな性格が生み出すワードチョイス。昔はいわゆる「根拠なき自信」だったかもしれないが、根拠と言えるものを得て今は新たな「攻めの姿勢」が宿っていた。

 これまで所属した各クラブでも、雰囲気やチームメートの特色を理解して自分の立ち位置を作ってきた上島だが、福岡というクラブでは自分がリーダーシップを執るべきと睨んで、自分のことは一度脇に置き、積極的にチームへ入り込み、チームビルディングに参画した。

 「刺激的な仲間に恵まれた点は、気持ちの部分で大きかったです。例えば、グローリと自分とは最初は距離感があって、その関係から彼の良さを尊重していきました。それはサロモンソンや他の選手も同じで、それぞれの特性によって自分の判断を変えてアプローチしていましたね。『プレーの違いを知って、自分のプレーを選ぶ』ような。カバーリングは特に重要でしたし、自分はビルドアップや最初のパスの精度は意識していました」

 思い返してみれば、選手たちが18人しか揃わない時期もあった。勝ち星に恵まれず17位に沈んだ時期も、良いイメージを構築する間もなく試合が続いた時期もあったが、上島は「また試合か」と嘆くことよりも自らとチームを奮い立たせることを選び、危機を乗り越えた。すると、次第に試合が待ち遠しくなっていった。

 局面での強さと足下の技術の高さに頼る時期は過ぎ、福岡守備陣のコーディネート役を担ううち、以前よりもプレーと思考の幅は広がった。強固な守備陣形の作り方、そのヒントを得た気分だった。2019シーズンの上島に対して、大谷秀和や鎌田次郎、染谷悠太が負ってくれていたように、「目先の1勝」よりも「年間での勝利」を辛抱強く追求したからこその自信。ましてや、雪辱を果たさずに手ぶらで帰る気などさらさらなかった。

 「改めて、『自分は柏レイソルという強いクラブで育ったんだ』という意識が根付いていることを知りました。そこで見てきたことや揉まれた経験が自分にはあった。『経験』という点で言えば、昨年の悔しさは活かせました。そこに関しては自分に満点をあげたいです」

 自身を省みて磨き上げた「スケール」や「ポテンシャル」を最高の「エンジン」で駆動させて、全速力で駆け抜けた1年が終わった。駆け抜けた先に見えたのは、「幸せで快適」な福岡という環境から離れ、レイソルでの「リベンジマッチ」という決断だった。

 「レイソルに帰ってからが本当に楽しみですね。レイソルには素晴らしい選手がたくさんいます。自分からしたらスター選手が揃っている。以前はその中で気後れしていた頃もありましたけど、今年レイソルで活躍した彼らに負けているようでは話にならないですよね…だから、『リベンジマッチ』なんですよ」

 強い語気と強い言葉が多くなったのも、少しの間影を潜めていた上島らしさでもあり、「心・技・体」が整った状態で自ら望んだ舞台へ舞い戻る。ソリッドさが際立つ現在のチームにどう活かされるのか楽しみな眩しい男が柏レイソルに戻ってくる。上島よ、最高の「リベンジマッチ」を見せてもらおうか。最後に笑うためにー。

 

(写真・文=神宮克典)