突然死する大血管病 ~家族を守るために何をすべきか~

医療最前線Drリポート

        日本大学松戸歯学部付属病院 心臓血管外科 教授

秦 光賢(はた みつまさ)先生

秦 光賢 先生

自動車運転中の突然死

  過去5年間、自動車運転中に約200人が突然死しています。当然他人を巻き込むことも多く、自動車運転中の病気発症でのトラブルは8000件にも及んでいます。原因として最も多いのは急性心筋梗塞。次いで多いのは急性大動脈解離です。この急性大動脈解離は近年多くの著名人が突然死していることから知名度が上がっています。今回はこの急性大動脈解離と睡眠障害について解説します。

急性大動脈解離

大動脈の壁は3層構造(内膜、中膜、外膜)をしていますが、突然の血圧上昇(血液の圧力)のため内膜に亀裂が入り、中膜が2つに裂ける病気です(イラストFig1)。胸部から背部に耐えがたい激痛が生じ、緊急手術が間に合わなければ9割が突然死します。心臓と上行大動脈は心膜に包まれた閉鎖された空間に存在します(イラストFig2)。

解離した大動脈壁は1~1.5層と薄くなっているため血液が漏出します。心膜に包まれた閉鎖空間に約300ml程度の血液が漏れるだけで、心臓は押しつぶされてショック死するわけです。近年、現役世代の睡眠時無呼吸症候群が急性大動脈解離発症ときわめて密接に関係していることがわかっています。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)

多くの場合は肥満や睡眠時の舌根沈下のため著明ないびきが生じ、1時間に数回から数十回も呼吸が停止します。このため動脈血酸素飽和度の低下が生じ苦しくて、呼吸するために目が覚めるのです。夜間何度も目が覚めるため(実際には気づいていません)日中に頻回に居眠りをしてしまいます。

人間の動脈血酸素飽和度は98~99%が正常です。約2分間、海に潜って苦しくなって我慢ができなくなった時の酸素飽和度は84%程度です。ところが重症SAS患者の酸素飽和度は70%以下まで低下しているのです。この苦痛のため血圧が急上昇します。人間は深い睡眠時には血圧が10~20%低下しているのですが、SAS患者では逆に血圧が上昇してしまい、不整脈や急性大動脈解離の原因となるのです。SASを早期に発見しマウスピースや持続陽圧換気(CPAP)などの治療を開始する必要があります。

日本大学病院の成績

日本大学病院で急性大動脈解離のために救急搬送された30~65歳の患者の95%に重症のSASが見つかっています。しかも患者は自分がSASであることを知らなかったケースがほとんどです。一方、日本大学松戸歯学部付属病院のいびき外来に通院し、CPAPで治療中の約100人の患者を調査するとひとりも急性大動脈解離の発症を認めていません。

運動、ダイエット、うつぶせ寝が重要

運動しダイエットするだけでもSASの予防は可能です。発症した場合も軽症であれば、あおむけ寝を避けるなどの方法で、ある程度は舌根の沈下(いびき)の予防が可能です。ご心配な方は、なるべく早期に、日本大学松戸歯学部 心臓血管外科あるいはいびき外来にご相談ください。

突然死を予防し、いつまでも家族のために若さを維持しながら、年をとるようにがんばりましょう。

■日本大学松戸歯学部付属病院☏047・360・7111(コールセンター)