発達期障害のある方の歯科診療ってどんなことをするの?

ふれあい毎日連載


日本大学松戸歯学部 障害者歯科学講座 教授 野本たかと先生

日本大学松戸歯学部 障害者歯科学講座 講師 

発達期障害のある方の歯科事情

 障害のある方を取り巻く環境は合理的配慮やニューロダイバーシティ(脳や神経に由来する特性が持つ多様性)の概念が社会の中で意識されるようになりました。歯科診療においても、個々の持つ特性によって、歯科疾患に罹患しやすい状況になっていたり、診療台に座ることや様々な器具を受け入れることが難しいなどの困りごとがあっても、適切な歯科診療を受けられる配慮が求められています。では、なぜ歯科診療を受けることが難しいのでしょうか。

なぜ歯科診療を受けることが難しいのか

 人はさまざまな感覚を受け取り、情報を脳で処理し、運動や行動などの反応が起きます。この感覚処理の過程で情報を上手に処理できず過剰に感じてしまう場合、歯ブラシが痛く感じたり、機械の音や振動、薬品のにおいが耐えられない苦痛に感じたりします。
また、逆に感覚に低反応な場合は、痛みに気づけなかったり、強く磨きすぎたり、歯肉をひっかいてしまう場合などがあります。この感覚の偏りを感覚調整障害といい、これらの反応は見通しが立たないことや人・環境などに対する不安により助長され、当事者は大変苦しい状況となり逃避行動として示されます。
このような大変苦しい状況は更なる歯科に対する恐怖を学習し、より歯科診療を受けることが難しくなってしまいます。

配慮が必要な方への歯科診療の実際

特殊歯科では、当事者や支援者との信頼関係の構築に時間をかけ、個々の特性への配慮のもと歯科診療を行っています。具体的には、過剰に反応してしまう場合は言葉の数、種類、声の大きさ、サングラスやイヤーマフの着用などで情報のコントロールを行い、不快な感覚刺激に過剰に集中しない配慮を行いながら受容を促します。
低反応な場合は繰り返し練習を行うことで反応性を高める配慮や刺激への注意を高める対応を行っています。そして、これらの感覚特性に配慮を行いつつ器具や処置内容について一つ一つ説明し、見せてから行うことで見通しをたて、不安を取り除く方法やスモールステップでできることを増やしていく方法、絵カードなどを用いて視覚的に理解を促すなど様々な行動調整法を用いて診療を行います。
このような配慮を行うことで,一度記憶したことが習慣化される特性や興味のあることに集中する能力を活かすことができます。具体的には、歯ブラシが習慣化されることで口腔衛生管理が良好となったり、定期的な通院に繋がる症例にも出会います。これらの対応だけでは困難な方には,精神鎮静法や全身麻酔下にて歯科治療を行うこともあります。
日本大学松戸歯学部付属病院は、昭和46年に特殊歯科が開設されており、所属する歯科医師や歯科衛生士の多くは,日本障害者歯科学会、日本老年歯科医学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会などの学会認定を取得した専門的な知識、技術、態度のもとに歯科医療を提供しています。特別な配慮が必要で歯科受診にお困りの方は、「特殊歯科」にご相談ください。
■日本大学松戸歯学部「子どもの口の発達外来」 ☏047・360・9661。