スターボーイは控え目に -山田雄士 

レイソルコラム

 場所は9月2日横浜FM戦試合当日午後のロッカールーム。


 MF山田雄士(ゆうと)選手はチームのベテラン・MF三原雅俊選手からこんなことを囁かれたという。「今日、ゴール決めそうやな」


 そして、数時間後、その囁きは現実となった。


 サイドから生まれた好機、ゴール前には4人が駆け込んで来る良いアタック。山田選手は右サイドでMF高嶺朋樹選手からボールを受けると、一度ボールを持ち変えてから左足をコンパクトに振り抜いた。山田選手はこの瞬間をこう振り返る。


 「最初は朋樹くんがシュートを打つと思っていたので、こぼれ球を狙う意識でいましたが、自分にパスが来てもいいようにスペースを作っていて、サヴィオから朋樹くんにボールが渡って、目が合って、『来るな…』と。ボールをトラップした後、『カットインした方がいい』と思い、左足で打ちました。相手の股を抜いたのはたまたまで、ボールが良いところへいってくれましたね」


 放たれたボールは相手守備陣の圧力をすり抜けてゴール左隅に突き刺さっていった。待ち焦がれた自身のプロ初ゴールは昨季のJ1王者の鉄壁の守備を撃ち抜いた技ありの1発だった。


 この瞬間、「日立台」こと三協フロンテア柏スタジアムは歓喜の渦に包まれた。スウィングしたスタジアムのその中心で少しおぼつかない様子の「ヒーロー」はやや控え目に、ベンチ横に広がったチームメイトの祝福の輪を目掛けて走り出した。


 「日立台で決められてよかったです。最高ですね。シュートは打ちましたけど、『ホントに?入ったのかな?』という感じで、まるで夢の中のようでした(笑)。サポーターからの『ユウト』コールがあって、『ホントに決めたんだ』と実感していました。小さな頃からずっと見ていましたから。日立台でのゴール後の光景を。うれしかったです」


 今季一番と言っていいほど、「揉みくちゃ」にされた後には肩を強く組み「ユウトー!」と叫ぶマテウス・サヴィオ選手の抱擁が待っていた。M・サヴィオ選手は試合後に「ユウトは自分がレイソルに来てからずっと親交がある選手の1人。栃木での活躍もチェックしていました。このタイミングでレイソルに戻り、結果を残したことは『素晴らしい』の一言」と祝福していた。


 山田選手は今季開幕から育成型期限付き移籍で加入した栃木SCでプレーしていた。ある栃木の選手は「雄士がいるといないではチームが変わってしまうんです」と話すほどフィットしていたが、この8月中旬に柏レイソルからの要請を受けて、急遽レンタルバック。栃木在籍時に天皇杯に出場しているため、残念ながら、今季の天皇杯は出場できないが、復帰後はJ1リーグに出場している。


 「レイソルから『帰ってきて欲しい』との打診があった際にはうれしさが最初に湧きましたが、当然、迷いもありました。試合に出続けることができていましたし、少しずつ結果も付いてきていたので」


 復帰要請から1週間で気持ちを固め、レイソルへ復帰してから全てが順調に映る山田選手だが、チームは未だに降格争いの渦の中。その事実はどんなハッピーなストーリーにもまとわり付いてくる。予定より早く一度離れた愛着のあるクラブへ戻った。すぐに素晴らしい結果を残したが、そのクラブはこれまで思うような戦いを表現できず、未だその未来は未確定要素に包まれたまま。少し遠くから見ていた
「事実」はたちまち目の前にある「現実」となった。目標は「J1残留」と「3ゴールに絡むこと」。そこが山田選手の現在地。


 「この結果をベースにしたい。レイソルへ戻り、すぐに広島戦に起用してもらえた。横浜FM戦ではスタメンで使ってくれるとは思ってもみなかった。どの程度起用してくれるかも分からなかったので、『まずは練習から』と決めていたくらいでしたから、起用してくれたチームには感謝をしていますが、ゴール以外に自分が何かをできたとも思っていない。もっと色々な攻撃や相手が嫌がるプレーができたんじゃないかって思います」


 突然の復帰要請から堂々のスタメン。そして、見事な大仕事に素敵なサイドストーリー。夢のような1カ月を過ごしても尚、飄々と「マーさんの言霊のおかげですね」と語るなど、柏のスターボーイはどこまでも控え目だった。

(写真・文=神宮克典)