浅見錦龍 丁當《書の力 第45回》

ふれあい毎日連載

浅見錦龍(あさみきんりゅう)(1922-2015)

丁當(とうとう) 平成二十一年改組第四十一回日展出品作

172.9×68.8㎝ 紙本墨書 1面

成田山書道美術館蔵

 丁當(とうとう)とは貴人の装身具である玉が触れ合う時に発する音を示し、ひいては麗しいさま、音色を表すようになりました。

この作はその語を書いていますが、丁の第一画の筆の入れ方などは墨の飛沫も明らかで、麗しいというよりは勁(つよ)さ(のびやかで強靭なこと)を感じる書です。私はこの書を見てある故事が頭に浮かびました。

それは中国で項羽(こうう)と劉邦(りゅうほう)が天下を争った時のことです。両者の間で会合が開かれました。項羽の陣営に出頭した劉邦に対し、項羽の家臣は玉玦(ぎょくけつ)という玉の飾りを示して項羽に劉邦を暗殺する決断を迫ります。

玦(けつ)は決に意味が通じるので同意の語とされます。玉玦が接触して奏でる音に、劉邦はさぞ肝を冷やしたことでしょう。間一髪で窮地を脱した劉邦はその後、中国を統一します。

後に鴻門(こうもん)の会と語り継がれるこの会はとても緊迫したものだったでしょう。そう考えるとこの作は見る者に決断を迫る箴言(しんげん)(戒めの言葉・格言のこと)なのではないかと思うのです。皆さんはどう思われますか。(学芸員 山﨑亮)

※この作品は10月19日から同館で開催する「現代千葉の書」展で出品します。