書の力  第三十八回

ふれあい毎日連載

青山 杉雨 (あおやま さんう)<1912-1993>

缶翁印文 (1983年) 一幅 

136.7×68.0 成田山書道美術館蔵

缶翁は呉昌碩(ごしょうせき)(中国の清から中華民国初期に活躍した詩・書・画・篆刻の名人)のことです。ある時、缶翁の篆刻(てんこく)(はんこ)作品「聴有音之音者聾」を知った杉雨は感銘を受けます。そこで同じ言葉を上段に、印材の横に彫られた側款(そくかん)の文章を添えるかたちでこのような書幅が生まれました。

「有音の音を聴く者は聾」と始まり、「無音の音を聴く者は聡」と続きます。単に耳で聴くことは「聾」(聞こえていないこと)であり、心で聴くことが「聡」(賢い)。芸術家の心得として受けとめたのでしょう。また、杉雨の落款(署名部分)には、まだ自分は「聴く」ことに至っていないとため息をつく様子です。杉雨が古典とりわけ缶翁に気持ちを通わせながら、戦後の書壇を牽引する身として気持ちを引き締めて学んでいた姿勢を感じさせます。2024年は呉昌碩の生誕180年です。この作品は、現在開催されている「競書40年 現代の書」展で4月21日まで展示します。(学芸員 谷本真里)

(釈文)            

聴有音之音者聾、聴無音之音者聡。予之詺黄龍塼研云爾耳則聾、爾心則聡、意蓋取斯義焉。  

右缶翁刻印一方并側款一則録之生覚。我耳健而不聾則我未逮聴焉杉雨記。