紀泰山銘《書の力 31回》

ふれあい毎日連載

唐 ()泰山(たいざん)(めい) (概寸)13.3m×5.3m 拓本

 世界遺産としても知られる中国山東省の泰山(たいざん)。その頂上付近の岩壁には多数の文字が刻まれ、巨大な()(がい)()となっています。

中でも一際存在感を示しているのが(とう)玄宗(げんそう)皇帝が自書したこの紀泰山銘です。中国の歴代皇帝は泰山で(ほう)(ぜん)の儀式を行ない、皇帝としての証をたてることを目標にしていました。玄宗が施政方針を記したこの一文も、隷書(れいしょ)体を用いて謹厳さの中に皇帝としての余裕も感じる書きぶりになっています。傾国の美女、楊貴妃と出会う前の壮年の玄宗の姿がここにあります。

直接紙を当てて写しとったこの拓本は原寸大であり、その迫力は一見に値します。当館に常に展示していますので、ぜひご覧ください。(学芸員 山﨑亮)

(大意)

私が帝位に就いて10年余、困難な状況を経て国は富み、安定した状態となった。家臣は私に封禅の儀式をすることを勧めてきた。そこで私は儀式の準備をして、泰山で儀式を行なうことにした。泰山は神が集い、万物の原点である所。私が祈るのは万民の幸福であり、決して歴代の聖王と比肩するためではない。

この儀式が出来るのは多くの家臣のお陰である。私はこれからも一層善政を行なっていきたい。天命は徳のある者に下るという。我が国は初代皇帝李淵から善政を行なってきた。歴代の皇帝たちより私は功績が少ないが、是非天命を授け、代々継がせて欲しい。私は慈しみ、謙虚であることを誓います。秦や漢のような過ちはしません。