「昇仙太子碑」《書の力 第22回》

アート

唐 昇仙太子碑(しょうせんたいしひ) 

1帖 拓本 表具寸法31.7㎝×18.6㎝

唐の則天武后(そくてんぶこう)が遺した「昇仙太子碑」は行草の書体を用いていて、長い間行書、草書の書体に親しんできた日本人にも違和感なく鑑賞することが出来る作品でしょう。ただ、所々に見慣れない文字が含まれていますが、これが「則天文字(そくてんもじ)」です。

中国史上、唯一の女帝となった武后(ぶこう)は即位後、自らの権力を誇示する手段として約20字の新しい文字を制定しました。これらの文字は、武后失脚後は公的に使用されることはありませんでしたが、遠く日本にも伝わっています。

昇仙太子とは周の霊王(れいおう)の子、晋(しん)を指し、笙(しょう)を巧みに吹き、鶴に乗って昇天したと伝えられます。この碑にはこのような太子の伝説から、荒れ果てた太子の廟に武后が参拝して整備したことなどが書かれています。武后は周の王室の後裔を自称していたので、まさにこの碑は武后の政治思想を明らかにしたものでした。武后の決意が表れたこの碑にも登場する則天文字に込められた文字が持つ力、これもまた書の力の一つだということでしょう。(学芸員 山﨑 亮)

【釈文】(太字部分が則天武后(そくてんぶこう)の書。青字部分が家臣の薛稷(せっしょく)の書。「・」が則天文字)

昇仙太子之碑 并序

大周()册金輪()神皇帝御製 御書

朕聞()()権…。