書の力 第15回   

ふれあい毎日連載

北方(きたかた)心(しん)泉(せん)(1850-1905)『七言絶句』

167.0×68.0㎝ 一幅

古典を学ぶことは書の上達に欠かすことが出来ないものです。特に各書体(篆書(てんしょ)・隷書(れいしょ)・楷書・行書・草書)が出揃った4世紀頃は書聖王羲之(おうぎし)が登場し、学ぶべき古典があふれた時代として知られています。

当時の肉筆から学ぶことが一番良いのですが、古い時代のため多くは現存していません。しかし幸運なことにこの時代にほど近い、中国西魏(せいぎ)時代の肉筆が日本に遺っています。京都の知恩院が所蔵する『菩薩処(ぼさつしょ)胎(たい)経(きょう)』は、陶仵(とうご)虎(こ)が550年に写経したもので、国宝となっています。

写真の作品は、能書として知られた北方心泉が、中林梧(なかばやしご)竹(ちく)、巌谷(いわや)一六(いちろく)、日下部鳴(くさかべめい)鶴(かく)ら明治を代表する書家たちとこれを見に行ったことを漢詩に詠み、書いたものです。一画一画に粘りを感じる書きぶりは、清(しん)の大家、趙之(ちょうし)謙(けん)の影響も感じられ、書の故郷、中国への憧れが窺えます。彼らにとっても大陸の肉筆の古典は垂涎(すいぜん)の的だったのでしょう。

書は時代と場所を超えて人々に感動を伝えてくれます。(学芸員 山﨑亮)

【詩文】

壹巻古経西魏遺 雲棲董跡不為奇 殷勤寺主須深秘 応有翠華臨御時

【大意】

西魏時代の一巻の古いお経が遺されている。とても貴重なので、寺の主が大切に秘蔵するのも理解できる。天覧に値する類のものだろう。