災後三年五浦有感《書の力 第14回》

書の力

吉澤鐵之(1954-)『災後三年五浦有感』

87.8cm×170.0㎝ 1面

東日本大震災の恐怖から11年、被災地の力強い復興への歩みには、日本中の多くの人が勇気と力をもらいました。そのような想いが伝わる作品をご紹介します。

古(いにしえ)の文人を彷彿(ほうふつ)とさせる重厚さと余韻を合わせ持ったこの作は、現在活躍中の吉澤鐵之(てつし)先生の日展会員賞受賞作です。津波にさらわれた五(い)浦(づら)にある「六角堂」が再建された姿を、自作の詩と書で表現しています。

岡倉天心が建てた「六角堂」は、西欧化が進む日本で、東洋の文化を尊重するアンチテーゼが込められていたと伝えられます。感興に応じて詩を詠み、それを自らの書や画で表現する文人世界は、スローライフの理想形です。この作品の一面には効率化重視の現代へのアンチテーゼもあるのではないでしょうか。

時間をかけて、ゆっくりと味わいたい作品です。(学芸員 山﨑亮)

【釈文と大意】

『狂浪曽侵五浦郷 岸頭無影水茫々 如今巌上見何物 不屈天心六角堂』

津波が五浦を襲った。岸辺には影がなく、水面が広がるばかりであった。現在は岩の上に何物かが見える。天心の不屈の六角堂である。