四海兄弟(しかいけいてい)
河野 隆 (かわの たかし) (1948-2017)
一面 7.5×7.5㎝ 2016年 改組新第3回日展 会員賞受賞作
契約書などの書類には印鑑を押しますが、印は個人の信用を示すものとして、古来から今日まで用いられています。
書作品での印は、作品を仕上げたあとに、その締めくくりとして署名の下に押印することが一般的です。印を捺(お)すことによって、その作品はグッと引き締まります。それだけに、印の大きさや位置、作風にも工夫が凝らされています。ちなみに、陽刻(ようこく)して捺したときに文字が朱色になるものを朱文印(しゅぶんいん)、陰刻(いんこく)で白い文字になるものを白文印(はくぶんいん)といいます。
印づくりは石や木などに篆書(てんしょ)(書体の一つ)を刻(こく)することから、篆刻(てんこく)といいます。現在、多くの書道展において、篆刻は一つの分野として独立し、芸術性が追求されています。
こちらの「四海兄弟」(しかいけいてい)は、現代の篆刻界を牽引した河野隆先生(大分県臼杵市出身)の代表作の一つです。平成28年の夏、リオデジャネイロでオリンピック・パラリンピックが開催されました。河野先生はこれを観戦し、選手やその周りの人々が打ち解け合う様子に心打たれ、その思いをこの『論語』のことばに託しました。「真心と礼儀を尽くして他者に交われば、世界中の人々はみな兄弟のように仲良くなれるのです」といった意味です。生前の河野先生は多くの人に慕われ、周囲に温かい人の輪が途切れることはなかったといいます。まさに「四海兄弟」を体現した作家でした。
成田山書道美術館では、詩文や書画にも優れ、絵筆を揮う(ふるう)こともあった河野先生の生涯にわたる創作活動を紹介する「篆刻家 河野隆遺作展」を開催中で、会期は12月19日迄です。作家の人間味にあふれた、篆刻を中心とする作品世界が広がりますので、ぜひご覧ください。(学芸員・谷本真里)