よりどころ-松本健太

レイソルコラム

 自分が成功させたプレーに対してよりも自分のミスに誠実な選手だ。

 GKという結果直結するポジションの選手だからだろうか、松本健太は成功させたプレーの話題よりも、ミスの話題に対して「食いつき」がいい。

 その思慮深さを測るディテールとしてあるのは、インタビュー収録時には加速的な早口。自分の中にある思考や反省、展望などを畳み掛けながら、実に詳らかに伝えてくれる。その勢いは彼が極める趣味嗜好に関する話題をも凌ぐ。その意味でサッカーに誠実。そして、ミスに誠実。自分の成長に誠実なのだ。

 その結果として常に正直でボリュームのあるコメントとなる。こんなかわいげを持つ人だから、どんな時も松本と話すのは楽しく、惹きつけられる記者も多い気がする。

 マリノス戦での客観的な試合の総括は置いて、この試合での松本のハイライトを裸の言葉で投げかけたかった。

 それは「前半の『あのキックミス』はなぜ起きてしまった?」ということだった。

 「まず、単純にというか、あの場面、自分のプレーが良くありませんでした。チームで準備してきた『やろうとしてきたもの』に対して、『やろう!やろう!』となり過ぎていた。いつもよりも視野が狭まってしまっていて、ミスが重なってしまった。平常心で臨めていなくて、最初のミスでかなり慌ててしまって…今日の試合を通じてあったのはキックミスを含めて、特に攻撃に関しての自分のミス。そこが多かった」

 松本はそのように応えてくれた。

 あの瞬間、立田悠悟へ付けるイメージで松本が放ったボールはスリリングな軌道で右サイドのゴールラインを割り、CKを献上。直後の松本は大声を上げ、自らを律していた。

 次のコメントはその「大声」に内包されたディテールとなっている。「何があって、ミスが起こり、自分は今後どうしていくべきなのか」を伝えてくれた。

 ここで躊躇わずに併せて云うと、この上段のコメントの最後、「自分のミスが多かった」から間髪入れずに発せられた言葉たちであることはお知らせしておきたい。1つのクエスチョンに対して、このレスポンスはありがたい。

 「この試合へ向け、チームが提示してくれた、試合中で自分たちがやることに関しては、しっかりと準備してきただけに、やらなくては意味がありませんからそこは反省しています。自分たちの順位や試合の時間帯、展開も踏まえて、特にミスをしてはいけない時間帯やはっきりと表現しておきたい時間帯があると思うんです。結局は自分がプレーを成功させるのかに尽きるので、どんな判断をするにしても成功させなくてはいけない。今日の自分で云えば、特に攻撃の部分の成功率が低かった。その成功率に対して自分の技術的・判断の質・コミュニケーション、突き詰められることはたくさんあった。反省でもあり、自分とチームの間にある『伸びシロ』でもある。その部分をシーズンの残りでちょっとずつでも良くしていけるか…状況は状況としてあるので簡単なことではないと思いますけど、『今年勝つ為』にも『来年やその先に繋げる為』にも大事な作業になっていく。しっかりと表現できるように準備していきたいって感じています」

 …とのことだ。

 その直後のCKへの対応はあの時間帯の1つの「見もの」だった。少なからず、気持ちを引きずった状態ではあったはずだが、あの自らのキックミスへの「落とし前」をどのようにつけるのかはこの瞬間の注目に値した。

 何故なら何ごとも、「落とし前」をつけるなら早いことに越したことはないからだ。

 「自分の中にあるすごく個人的な感情として云ってしまえば、あのキックミスの後のCKとその一連の守勢の状況の中で、『絶対にやられてはいけないぞ』という気持ちはあった。その気持ちは絶対にあったし、CKクロスへの対応やシュートストップ…特にクロス対応に関しては、GKのみんなで取り組んでいる部分でもある。『守備範囲を広げていこう』と。気持ちの部分もありましたけど、純粋に練習からやってきた形をちゃんとした形で出せたプレーでした」

 CKのボールに対して鋭く反応、強くステップを踏み込んだ松本は全身を伸ばしてボールへアプローチ。確か右手だったと思うが、見事ボールを掻き出した。普段よりもやや強引に飛び跳ねたようにも見えたが、日々の取り組みが良い形で出た。何より松本自身を救ったワンプレーとなった。

 この成功体験や記憶は松本が実戦で得た貴重な皮膚感覚となるのだろう。また、印象深い表現でこの日のパフォーマンスを回想した。

 「守備面は今まで積み重ねてきたことがしっかりと出せていた。その部分、守備の部分…そこが崩れずにプレーできていたことは今日の試合の中の『自分の心の拠り所』としてあった。『今日は攻撃が不安定だが、守備面は絶対に大丈夫だ』という拠り所としてですね。その確信を持つことに繋がったのはキックミスの後の守備対応でした。あのワンプレー、ツープレーがブレてしまっていたとしたら…もしかしたら、今日は悲惨な結果に終わってしまったかもしれないほど、大事なプレーでした。その意味でも『拠り所』があるかないかというのはすごく大きかったです」

 その後、松本の様子は安定して終わってみればクリーンシート…そのように見えたが、松本に語らせれば、その内実は少し違ったようだ。

 「今日はみんなもそうだったと思いますけど、守備はできていた。シュートは打たれてはいましたけどね、守備は安定していたので、いわゆる『スーパーなシュート』というシュートはありませんでした。自信を持って対応できていたと思います。だから、この自信を持って、確実にできた部分をまた引き続き出していきたいですし、守備からゴールへ繋げていくのが理想としてあって、自分は少しでもチームに良い影響を与えられたらと思います。その為には続けていくしかない」

 冒頭で触れたように、思考や反省、展望をついて伝えてくれるのが松本取材の特長。そして、それは1ターンの中だけの話なのではなく、この日の10分ほどの話、その全体の中にも起承転結がある。

 人の話を聞いて、自分の意見と照らし合わせて、必要な意見をしっかりと伝える。その理由だって話せる。少し辛い話だって聞けるし、話す。何度か妙に刺さってしまったこともある。とても大きな試合に破れ、「自分のせいだ…」と暗闇の中へ沈めらた後だって、自分の気持ちを言語化していた。何かを言われて、「違う」と思えば、強くだって弱くだってちゃんと否定はできる人。そして、話題が変わってもその作業ができる。もう、勝っても負けても。

 要するに「人と向き合い、丁寧な会話ができる人」なのだ。

 そう書かせてもらった以上、このテキストは終わりに向かっていく。最後のテーマは「この試合での経験を踏まえた、この先」ー。

 「今日は自分たちはパスを繋ぐ準備をしてきて、でも、そこでミスが続いてしまって、結果も別のものになってしまって、『ミスが目立つので、次の試合からは繋がずに前へ蹴ることにした』となってしまったとしたら、ずっと準備してきた、積み重ねてきたことが意味のないものになってしまう。それだけは避けたい。ただ、チームスタッフの全員も、自分たち選手も今の状況に於いてはすごく繊細な判断が必要だし、求められるのだとは思います。だけど、やっていくことでしか積み重ねはできないし、次の勝利の為に準備をする作業はこの先もずっと変わらずにある。それを続けていかないと、チームとして実のあるものになっていかないですしね。だから、その『塩梅』ですよね、こうやって、今日1つ勝てたところで、自分たちも改めて考えていかないといけない。もっと良くしていきたいですからね」

 これだけ、「人と向き合い、丁寧な会話ができる人」だから、この3試合連続のクリーンシートへ向かうところでは準備段階から試合の前、試合中、試合後。そして、またあくる週の次戦への準備…そのプロセスで相当な議論があったことだろう。

 次はまたどんな攻め方や守り方、結果を見せてくれるのか、今はまだ分からないが、この人がこれだけの気持ちや理由、正確な矢印設定を持ってピッチに立つのなら、信じてみる価値はある。

 だから、最後に要約をする。

 例えば、誰かに「マリノス戦のマツケン選手はどうでした?何か言ってました?」と聞かれたら、私はこう言うと思う。

 「マツケンはミスをしたけれど、自分のプレーで見事に立ち直って、試合もまとめてみせたね。勝ち試合の中で、本人が言うほどミスってない感じだけど、公私共にこだわりが強い人だからね。細かく色々あるみたい。いつもね、たくさん話をしてくれる選手なんだけど、不思議なもんでマツケンと話していると、『予感』じゃないけどね、なんだか、『きっと、大丈夫だわ』って思えるんだよね。それが今のGKとしての最大の魅力じゃないかな。どれだけたくさんの話をしても、頭に残るんだよね、マツケンの言葉たちって。だから、いつも些細なことも聞かせてもらってる」

 あのワンプレーに関心があり、マイクを向けたはずが、最終的に松本のキャラクター紹介記事のような着地をしてしまったことには驚いてはいるものの、私はすごく気に入っている。

 こちらが何やら指摘をする前に彼の中で決着がついていて、もう次へ向かっているから、頼もしい。「自分はキッズファンに支えられているので、いいところを見せないと!」とよく笑うのだが、レイソルサポーターのキッズたちはなかなか良いセンスをしているなと思う。


 今回は古賀太陽と立田悠悟、松本健太にフォーカスを当てた記事を作成させてもらったが、彼らが何故守備者となり、トップレベルで戦っているのかを思い知った気がする。

(写真・文=神宮克典)