「こだわり、極め、高みへと」ー 細谷真大

レイソルコラム

 今や彼が柏レイソルの「エース」であることに異論を唱えることは難しい。レイソルサポーターたちが細谷真大を讃え奏でる「ホソヤマオゴール!」チャントは一番の盛り上がりを見せる事実は何より雄弁な事実である。 

 さらに今ではゴールランキング表を上位から見渡し、細谷の名を探して、上位陣のゴール数と残り試合を数えて、様々な想像をすることだって、彼が見据えるパリ五輪出場とメダル獲得はおろか、ついその先の特別な未来すら描いてしまう。

 それほどの価値を持つ選手である以上、リーグ戦の合間にレイソルを離れ、ブルーのユニフォームを着て、若き世界の列強たちとの対戦してくることも当たり前。帰国から24時間もたたぬまま、Jリーグに出場したことだってあるタフな世界線で戦っている数少ない選手の1人だ。最早、彼にとって「若手選手」という括りはいささか窮屈過ぎると感じさせてくれるほどの輝きを放っている。

 細谷が「アタッカー」から「ストライカー」、そして、「エース」への最初の進化を果たしたのは2022シーズンだった。

 J1リーグでは8ゴールを記録。また、U-21日本代表として「AFC U23アジアカップ」へ出場し、「EAFF E-1選手権ではA代表キャップも刻み、活躍のステージを増やすと、同年末にはJリーグ選定のベストヤングプレーヤー賞にも輝いていく中で見てしまった景色や戦いの中で得た経験や感覚が進化の停滞を許さなかった。

 「ゴールを決めるためのポジショニングやチャンスメイクのポジショニングを見つめ直して、昨季の倍のゴールを決めたい」

 そう誓って臨んだ今季、2023 J1リーグ第30節終了現在、積み重ねてきたゴールは「12」。チーム事情や複数の布陣でプレーしてきた今季にあっては特筆されるべき見事な数字である。

 デビュー時から対峙した選手が弾き飛ばしてしまう「現象」を起こすほどの強い体と誰よりも勇ましいハートを持って、力強くステータスを高めてきた。その力強さは守備の場面でも驚異的。細谷が相手のルーズボールを奪い去り、「1人速攻」を仕掛けるシーンは特に珍しいシーンではないし、相変わらず守備者を弾き飛ばしてのドリブルからの形もあるが、DFとの駆け引きを繰り返し、意識していたポジショニングからの形で仲間からボールを呼び込む形も増えた。大事なPKの場面で「パネンカ」だって決めている。

 また、フリーになった自分へパスが届かず、言葉にならない叫び声を上げることも増えた。まだまだ進化の途中ではあるが、細谷に芽生えた、自分が何者であるかの「自信」と「自覚」を感じられるシーンが増えた。

 とはいえ、まだまだ進化の真っ只中だ。謙虚にこんな感想を残すこともしばしばある。

 「チャンスを作るための動き出しに関しては自分も増やしていく必要があるんじゃないかと思っています。ボールを呼び込む動き、クロスへ対する入り方、ゴールへ繋がる動作や動きそのものをもっと改善していかなければ」

 「少し相手の激しい対応に付き合い過ぎてしまった。クロスが来た時にバチバチやり過ぎてしまった。もっと良い距離感が作れたはずだし、中盤へ降りて一度ボールを収めてから動き出す必要があったと自分では思っています」

 マイクを向ける度、今の細谷がより多くのゴールを決めるためのクオリティを欲しているのは一目瞭然だった。

 そんな細谷の進化に欠かせない存在がいる。レイソルアカデミーの先輩であり、A代表で共にプレーした中谷進之介(名古屋)だ。中谷は細谷が持つ現状のクオリティをこう言語化してくれたことがある。

 「きっと、ゴール前に張り付いて『ここにパスをくれ』という形を持ってゴールだけを決めることだけにこだわっても、真大はある程度結果を出すことができるはずだし、今のスタイルをさらに極めていくこともありだと思う。どのスタイルを選ぶのかは真大が決めればいい話だし、楽しみではあります。ただ、前を向いた時の速さは真大の武器。『ただ速いFW』という訳ではなく、最初の『迫ってくる速さ』がまずあって、そこからまた1段スピードが速くなるので、速さが2段階あるような感じです。しかも、サイドの選手ではなくFWですから、DFの自分としては嫌ですね」

 この数年で見られた両者のマッチアップでは細谷が中谷を千切るように抜き去り強烈なゴールを奪ったこともあれば、中谷が細谷を封じてみせたこともあるのだが、私たちから見れば、対峙した中谷に何一つ怯むことなく掴み合いを展開できる細谷の凄みを感じられる「対決」でもある。

 今季は既に2度の対決があり、細谷はゴールを奪えていないのだが、12月のJ1最終節でもう一度両者の対決の可能性がある。進化著しい細谷が中谷を飲み込むシーンに期待したいところだ。

 この「スタイル」という文脈上で、細谷がよく理想像として口にするのは「チームが苦しい時にこそ、勝ちに導くゴールを決めるFW」というイメージ。細谷はこの理想像のイメージにこだわり、極めようとしている。

 そのイメージの源は、サッカーに夢中になった少年時代、テレビの中で、大好きなレイソルを救うゴールを積み重ねて、チームを頂に導く原動力となったFWの選手の姿だった。そのFWとは柏レイソルのレジェンドの1人・工藤壮人さんのことである。

 「昨年達成できなかった2桁ゴールを達成できてうれしいですが、チームのJ1残留のためにも、もっと決めていかなくてはいけないですし、プロ4年目の自分の中には、工藤さんが自分と同じプロ4年目に記録した『13ゴール』という数字があって、『この数字を超えたい』という思いがある」

 細谷は過去に一度、練習試合で戦った工藤さんに挨拶をした際に掛けられた「いつも見ているよ」という言葉を大切にしているという。きっと、工藤さんは今もこの広い空のどこかでレイソルの戦いや細谷の姿を見つめてくれているだろう。

 これ以上ないチャンスが訪れている。10月29日の川崎戦を含めJ1リーグは残り4試合。自身のアイドルを超えるチャンスを必ずものにして欲しい。

 そして、その先の12月9日には天皇杯決勝も控えている。

 かつて語ってくれた「いつか自分を知っているサポーターのみなさんに『細谷ってヤバかったよな!』って言ってもらえる選手になりたいです」という野望はほぼ果たしてしまったのかもしれないが、より確固たるものとするには絶好の機会だ。自身のゴールで国立競技場を揺らし、レイソルサポーターが奏でて響き渡る、「ホソヤマオゴール!」の大声援を、両耳に手を当てながら独り占めして欲しい。

 かつて、マイケル・オルンガ(アル・ドゥハイル)の驚異的な決定力やクリスティアーノ(甲府)の爆発力を近くで見つめ、江坂任(蔚山)が放つリボンの付いたスルーパスをゴールに沈めることを目指していたクラブ生え抜きルーキーはその4年後、レイソルのエースとなって、レイソルを再び高みに連れて行く。私たちはそんな素敵なストーリーを目撃し、語り継いでいきたい。

 もう既にこの原稿内に収めるには難しいほどに刻み続けているその素敵なストーリーのイントロダクションはこうだ。

「細谷ってヤバかったよな」ー。

実現可能な未来はもうすぐそこにある。

(写真・文=神宮克典)