「もう誰にも負けたくない」ー 山田雄士

レイソルコラム

J1リーグでの戦いに向けて始動した柏レイソルの中に特別なモチベーションを抱いている若手がいる。2年目のMF山田雄士だ。

昨シーズンの公式戦出場はルヴァン杯の1試合のみで、リーグ戦デビューは未だ果たせずにいる。「爪痕を残せた」とは言えない歯痒かった1年を山田はこう振り返った。

「昨年の今頃はプロになったはいいけれど、気持ちの面で遠慮もあった。ネルシーニョ監督が自分たちに求めることや育成年代で体験してきたサッカーとは違う『プロのサッカー』を体感して、かなりのショックを受け、気持ち自体が下がってしまっていた。変に気を遣ったプレーや安全で弱気なプレーばかりで。それに気づいてからの立て直しに時間が掛かってしまいました。試合には全く絡めずに1年目を終えてしまったのですが、自分の中では、秋口あたりから『やれている』という手応えを感じていたんです」

キャリアや実力のある選手が揃い、序列は1番下からのスタートとなった。

プロの世界に気後れするうち、夏場の紅白戦では激しく顔を打ち負傷。しばらくチームから離れるなど悔しい経験ばかりが行く手を阻んだが、主力選手たちがJ1復帰へのギアを上げていた頃、山田は「自分」を取り戻したという。

練習試合や紅白戦の限られた時間の中で、ボランチなど複数のポジションでプレーするうちに、得意とするパス能力がプロのスピードや強度の中でも通用する感覚を得つつも、シーズンは終了。シーズンオフ初頭に設けられたチームスタッフとの面談の場へ不安な気持ちで向かった山田はその席で胸躍る一言を耳にしたという。

「自分も『修行をしてきなさい』と告げられてもおかしくない立場の選手だと感じていましたが、『ネルシーニョ監督は山田を戦力として考えている』と聞いた時はうれしかったです。監督は自分を見ていてくれたわけですから。初めて監督から認めてもらえた。まずそれがうれしかったです。今年もレイソルで戦うチャンスがあるのは幸せです」

その一方で山田の先輩や同期の中には他クラブでのプレーを選択する選手も多くおり、プロの世界の厳しさを目の当たりにした。マイペースでおおらかな山田の胸の中にも「明日は我が身」という危機感が芽生えた。

「今までは周りを頼っていた。同期を含め年齢の近い選手たちが他クラブでプレーすることになった以上、自分も誰かを頼るわけにはいかないですし、自発的な行動が必要になる。他クラブへ行った選手たちの能力からして、いずれ頭角を現すでしょう。離れていても刺激的ですね。自分はレイソルに残してもらえた以上、特別な危機感を持っていますし、もう誰にも負けたくない」

強い気持ちを携えて迎える新シーズンは、山田が得意とする守備的MFやボランチのポジションでは大谷秀和、三原雅俊、ヒシャルジソン、小林祐介、新加入の戸嶋祥郎らと競争することになるが、そんな事実も自分の力に変える強さが今の山田にはある。

「自分と違う、自分が成長するために必要なものを持った先輩ばかり。お手本だらけで学ぶことだらけ。最高の環境なんです。先輩にないものを自分も持っているはずですから、良い部分を吸収して力を付けたい。様々な面で『負けない選手』になることやチャンスを自分の力で切り開いていくことが今の目標です。昨年の1年間でサッカー選手は試合に出ていないと何も始まらないことを心から痛感した。もう、悔しい思いをしたくないですから、ある意味で『今年が1年目』という気持ちです」

並居る猛者たちを押し除けて、未来を切り開き、山田がJ1のピッチで輝くことはできるのか。戦いは既に始まっている。

(写真・文=神宮克典)