ホーム・三協フロンテア柏スタジアムにコンサドーレ札幌を迎えた2020J1リーグ開幕戦。4ゴールで勝利したチームの先制点と3点目をスコアしたのはトップ下を務める江坂任。2ゴール1アシストの活躍で満員御礼のスタジアムを歓喜に導いた。2つのゴールはDFの反応を誘っての技ありゴールだった。
「1点目は自分の得意な形。相手を上手く引きつけてからの左足だった。2点目は一度動き直しをして、スピードの変化で相手を剥がせた。守備の意識はネルシーニョ監督からずっと求められている部分でもあるし、自分でボールを奪ってから、最後にゴールを決められたところが気に入っています。後半を迎えた時に『2点では危ない。3点目が欲しい』と感じていたので、あの3点目が大きかったと思う」
J1リーグに先んじて開幕したルヴァンカップ・ガンバ大阪戦は多くの時間を守備に費やした上での辛勝だったが、札幌戦はまるで昨季の再現かのような、堅守をベースとした変幻自在の攻撃で相手を突き放すポジティヴなインパクトを残した。江坂も「まずは勝利できてよかったです」と静かにチームの仕上がりと勝利に喜びを見せていた。
但し、ある条件付きでー。
「ルヴァン杯もリーグ戦も勝って、幸先の良いスタートが切れている。今は『良い守備から良い攻撃』ができているので、そこをぶれさせないようにしたい。全員で連動した守備ができれば、チームのカウンターはかなりの武器やと思ってますし、J1でもトップクラスやと思うので。まだ試合の中で苦しい時間もある。札幌戦では失点もしましたけど、良い流れで来られているのでこの流れを切らずにやっていきたい」
2018年、「レイソルのポゼッション・サッカーの中でプレーしてみたかった」と柏レイソルへ加入して攻撃の全てのポジションで高い能力を発揮。江坂の才覚は、「降格」という事実にもかき消されることはなかった。昨季のJ2リーグでは、頭上をボールが飛び越すような戦い方を強いられた時間もあったが、そんな中でも強かにボールを足元に収め、他者には作り出せない好機を作り出した。また、突如として「試合の中で『もう、左足でいったれ』って場面が増えたから』という理由から左利き選手の如くボールを扱い、選手としての幅を広げながら献身的な守備でも存在感を見せるなど、「良い守備から良い攻撃」の象徴的存在としても首脳陣や周囲の信頼を高めた。
そんな道のりを経て、中盤と前線の中継点としての確固たる地位を築き迎えるJ1だが、江坂は気負うことなく自身とチームの今をこう分析した。
「昨年から継続して起用してもらえていますし、攻撃についてはある程度は任せてもらえていると思っているので、いつもゴールに絡むことは意識していますよ。レイソルは元々ボールを持てないチームではないし、DFラインでのポゼッションも良い。自分にも良いボールが入ってくるし、前線の選手たちのアクションも質が高いので良い攻撃ができている。今はチームが上手く回っていますね」
レイソルの10番を背負い、トップ下のポジションを務め、両足を完璧に扱える技術を持ち、ゴールを自分で獲ることもできるし、獲らせることもできる江坂はJリーグの中でも屈指の「違い」を持っている選手だ。さらに今季はプレシーズンマッチやルヴァン杯でもチームのゴールに絡んでおり、開幕戦の2ゴールも踏まえたうえで今季のテーマに話が及ぶと、「20ゴール?それはムリ(笑)!」と笑い、少しの余韻を持たせながらこう口にした。
「もう、ゴール数は気にしてへんというかね…2桁ゴールを獲れても、チームが勝てないと意味がないやろ。それこそ、9ゴール獲っても、チームを降格させてしまったシーズンもあったわけやから、今季も常に『チームを勝たせられる仕事』をしたいって思う。例えば、ゴールを獲れない試合でも守備で貢献できる存在でいたい。ルヴァンの初戦は守備しかできていないような試合やったけど、前半から相手が嫌がる守備はできていた。今はチームにゴールを決められる選手が揃っていますから、自分は攻守でチームが上手く回るような仕事を続けたいなって思います。真ん中(トップ下)でやらせてもらっている以上はそういう部分だって求められているはずなんで」
27歳ー。キャリアの絶頂期に差し掛かったと言っていいかもしれない。チームきっての花形選手でありながら、守備のオーガナイズには強いこだわりを持ち、技ありのゴールや美しいスルーパスを披露するだけでは満足はできない。チームの勝利や栄光の為に自分の才能や感情、心技体の全てを捧げる覚悟に溢れている。
個人成績は二の次でチームの勝利以外に興味がない彼が望むか望まないかはさておき、私たちは近い将来に気高き「キング」の誕生を目の当たりにすることになるのかもしれない。
(写真・文=神宮克典)