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『リラの花咲くけものみち』藤岡陽子著

 花言葉のように……「私」を咲かせる物語

 「新しい世界は白色をしている」。北海道で獣医師を目指す主人公、岸本聡里のこの言葉には目に映る圧倒的な景色以上の意味が込められているのです。
愛犬を守るために中学の3年間を部屋に引きこもり続けた聡里。それを祖母のチドリが救い出し、やがて迎えた高二の夏、夢との出会い。「言葉を話せない動物たちの怪我や病気を見つけて治すなんて、他にない特別な職業だと目の奥までも熱くなった」のでした。
藤岡陽子著『リラの花咲くけものみち』は人間の世界の隣にある動物達の命と向き合う「けものみち=険しい道」の物語。


 例えば出産時に母馬の命を救うため、子馬の命を諦める緊急手術の場面。
「『やめてーーっ!』
 喉が破れるくらいの大声で聡里は叫んでいた。これまで感じたことのないほどの恐怖が体の内で渦を巻き、心が砕けそうになる」。その後気を失った聡里が目覚めると、先輩から「獣医師の仕事は甘くないから……無理だと思うなら、やめたほうがいい」と宣告されてしまうのです。
 傷ついた聡里がチドリのもとに帰ると、心臓の弱かった母親が聡里を生んだ時の話を教えてもらいます。「これまでの我慢は全部、強くなるための時間だったって言ったの……」。命がけで叶えた大きな夢こそが自分だったと知り、聡里は……。
 さて、この小説の各章には全て花の名前がつけられています。先述の厳しい先輩は「ハリエンジュの花のように強くなろう、そう誓ったの」と語り、「頼られる人」という花言葉のように生きようとしています。
白樺の花言葉は「あなたを待っています」です。「シラカバの抱擁」と名付けられた章はどんなお話でしょう。さあ、ページをめくってみませんか。


■K太せんせい
現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。